Tresure box 〜藤北〜

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「ん？」
「……」



返事は無い。
だけど覗き込んだ表情が穏やかになってきているのを見て、強張るような冷えからようやく解放されてきているのだと気づいた。



「今日、楽しかった？」
「…ん、楽しかったよ」



寒いから行きたくないという気持ちもあるのだろうが、本来飲み会が好きな北山は実際そこへ行ってしまえばどこでだって楽しめるというのが長所だ。



「よかったね」
「ん…。…こないだ一緒に仕事したあの人が来ててさ」



それから俺の淹れたダージリンを少しずつ飲み進めながら、俺の腕の中で北山はポツリポツリと今日の飲み会の感想を聞かせてくれた。
時には饒舌に、時には穏やかに、ほんの少し話を盛りつつも、ちょっとしつこく絡まれて対応に困ったという心配エピソードまで、ゆったりとした口調で話す北山に俺も同じ雰囲気で相槌を打ちながら、優しい時間が流れていった。



「…ふぅ」
「飲み終わった？」
「ん…」
「おかわりする？」
「…いい」



もういらないとマグをテーブルの上に置いて、そのまま俺に全体重を預けてくる。



「んふ…」



いくらか身体も温まって完全にリラックスモードに入っているのか、微笑んで目を閉じている。
少し伸びた前髪を横に流し、そのままクルクルと指に巻きつけて遊んでいると鬱陶しそうに払われた。
気にせず再度髪に手を伸ばすと、パチッと目が開けられた。



「…いや？」
「……んーん」



嫌という訳ではないらしい。
ということはそろそろ眠気が襲ってきているということなのだろう。



「ベッド行こうか」
「……今日はやだ」
「は？…っば、違うからっ、北山もう眠いでしょってこと」
「……あぁ」



チラリと顔を見られ難しい顔を向けられたと思えば、どうやら俺が邪なことを考えていると思われたらしい。
そりゃあ恋人と一緒にいるんだからそういう気持ちが全く起こらないわけでは無いけれど、こんな日の北山は気分がのらないというのはもう長年の付き合いでとっくに察している。

随分昔に、抱き合えばあったまるよと半ば強引に服を脱がせたこともあったけれど、その時の北山の顔を思い出しただけでも二度と無理矢理にはしないと心に決めたものだ。

3→←寒がりな君

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