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走って、走って、お天道様の熱射を背中に浴びながら、この心臓の高鳴りをかき消すくらいに走り続ければ場地はいつも友達と集まる神社に来ていたのだ。
ハァハァと跳ねる呼吸と大粒の汗がダラダラと額から零れた。
「あれ、場地じゃん。何してんの」
「……マイキー、何でもねぇよ」
神社の隅には、暇そうにしていた万次郎がいた。
コイツは1人で何をしているのだろうか。
日陰に隠れていた万次郎はアイスを頬張りながら「ふーん」と呟いた。
目が細まり、猫のようにコチラを眺める万次郎に何故か居心地が悪くなる。
何かを見透かされそうな気がして落ち着かなかったのだ。街頭のない夜のような黒い瞳から逃れるように、場地は万次郎の隣に座る。
太陽を遮断している日陰はヒンヤリと涼しかった。
何故かずっとキンチョーしていた気持ちに、少し余裕が出来た。
「恋ってさ、甘くて苦いんだって」と突然万次郎は話し出す。この男はマイペースだった。
話がアッチに変わりコッチに変わる。
典型的なB型男だった。
そんな万次郎の相手を長年務めてきた特に何も思わずに場地は「んだよソレ」と返す。
「真一郎が言ってた」
「真一郎くんが…?」
「うん。何かよく分かんねぇんだけどさ。ココがキュッてなって、ソイツのこと見るだけで嬉しくなるんだって」
万次郎は自分の胸あたりを指した。
ソコがキュッとなるらしい。
場地は自分のソコに手を当てた。
ドクドクと小さな動きが服越しに響く。
先程まで馬鹿みたいにうるさかった所であった。
「でも、ソイツが他の男と喋ってたらスゲェ嫌な気持ちになるって」
「え、なんで」
「嫉妬とか?」
「?」
「あー、取られたくねぇ。って思うんじゃね」
「それが苦いってやつ?」
「そんな感じ」
「へー。よく分かんねぇけど流石は真一郎くんだな!物知りだ」
「うん。ハハ、まぁ、経験者は語るってやつだろ、普通に」
二人の間で、ヒグラシがカラカラと鳴いていた。
万次郎はチラリと場地を見つめ「頑張れよ」と言った。
場地は「おう!」と答えた。
なんで応援されたのか分からなかったけど、明るくて、ハキハキとした口調で返した。
何かが一瞬引っかかった。
しかしその違和感を考える前に万次郎が突然立ち上がり「暇。鬼ごっこしよ。お前鬼な」と走り出したので、考えていた事がポーンと飛んでいってしまったのだ。
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作者名:軍時 | 作成日時:2022年9月5日 20時