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場地圭介には幼なじみの女がいた。
いつも陰気な表情をした、地味な女だった。
自分に自信の無い彼女はいつもオドオドと場地の後ろに隠れるのだ。
小さい頃は場地はこの女が気に食わなかった。
言いたいことは言えばいいのに何故かモジモジと下を向く。
それに直ぐに泣く。
そんな奴は、いじめっ子の格好の的になるのだ。
いじめっ子はこういう弱いやつを見つけるのがとても上手いから。
「何してんだテメェら!」
「うわ、場地がきたぞ。逃げろ逃げろ」
「あ、待てコラ」
今日だって、女は近所の悪ガキ共に寄って集っていじられているのに場地が来るまで黙ってずっと下を向いていたんだ。
ハァハァと肩で息をする場地は何も言わず涙を流す女をギロリと睨み上げた。
鬼のような鋭さだ。
ビクリと女は固まった。
「なんで黙って突っ立ってんだよ」
「……」
「やめろって言えばいいじゃねえーか。なんでされるがママに下向いてんだ」
「だって、」
「なんだよ?言えねぇってか。嫌なことは嫌だって言わねぇーとアイツら馬鹿だから分かんねぇんだぞ」
こんな時も、女は下を向く。
ポロポロと頬を流れる涙だけが、女の今の心情を物語るのだ。
言いたいことは言えばいいし、やりたい事はやればいい。それにとやかく言うやつは殴ればいい。
場地は分かりやすく生きていたので、女が何故ここまで難しく生きようとするのかが分からなかったのだ。
泣き続ける女の手を取り、「帰んぞ」と歩き出した。
女はウ、ヒックと小さく嗚咽を繰り返し、場地の後を大人しくついてくる。
母ちゃんから守ってやってとお願いされなかったらこんな奴、絶対相手にしねぇのに。
めんどくせぇ、と頭の中で呟いた。
口にしなかったのは、口にしたら女が酷く落ち込むのが経験から分かっていたからだ。
「けーちゃん、ありがと」
家につくと、女はもう泣き止んでて小さく頭を下げた。
目はまだ赤く、瞳はウルウルと宝石のように輝いている。
「おう」
場地はこの時の女の様子が苦手だった。
どうしたらいいか分からなくなるから。
「もう泣くのやめろよ」
「……がんばる」
腕の前でぐっとガッツポーズをする女を眺めながら、場地は出してもらったジュースを飲んだ。
無理だろうなぁと思った。
またコイツは泣きべそかいて場地の背中に隠れるのだ。
その時が来たら、場地はしょうがねぇなと女を守ってやるしかないのだ。
母ちゃんから言われたから、仕方がないのだ。本当に。
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作者名:軍時 | 作成日時:2022年9月5日 20時