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それは萱島さんも、と口に出そうとしたけど、なんとなくそれを引っ込めて、萱島さんの手を取り歩いた。
「こうしてると、似合って見えるかな」
「なにそれ、頭ん中お花畑じゃん」
二人で笑い合いながら歩みを進めた。
隕石なんて、無くなればいい。
そんな日は来てほしくない。
この幸せが、ただただ続いてほしいから。
終わりが近づいてはいるものの、何も特に起きないまま、穏やかな時間が流れている。
そんなある日、突然畑野先生からのメッセージで携帯が光った。
「海?」
「地味に暑いんだけどー」
「夏ですからね」
萱島さん、なんか海似合わないな。
何で二人で海にいるかというと、特にデートなわけではない。
「お前も来たか、ぽやぽやお節介から連絡」
「お久しぶりです」
遠くから爽やかにランニングしながら、白浜さんが現れた。
「疲れたなんて言って心配かけたよな」
「ほんとだよ」
「でも元気そうで、良かった」
こうやって、三人で和やかに話せる日が来たことが、素直に嬉しい。
萱島さんの言った通り、白浜さんはやっぱり立ち上がれる人だった。
「ほんとの事言うと、俺ちょっと嬉しかったんだよ。あん時弱音聞いて、初めて、あーこいつと分かり合えるかもなって。溺れた奴にしかわからない気持ちもあるからさ」
確かに、あの時沈んだ白浜さんを見て、何故かすごく身近に感じたのを覚えている。
未来にいた頃よりも強く。
奥の方で、手を振る人影が見えた。
畑野先生だ。
「来年もまた、この景色が見られるといいですね」
「今日で見納めだろ」
「またすぐそういうこと言う」
「この四人で見たいな。またこの海」
平和な海で、白浜さん、畑野先生、萱島さんと黄昏るなんて、あんなジャングルからは想像もできない状況だ。
ずっと何年も先まで、こんな日が続けばいい。
この世界で、みんなでまた笑いたい。
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作者名:藍 | 作成日時:2023年8月20日 22時