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「萱島さん、とAさん?」
「すげぇ」
「白浜さん」
萱島さんに会いにきた白浜さんと、偶然道ですれ違う。
そのまま三人で歩いて、東京ブルームタワーを見に行った。
「付き合ってるんですか?二人」
「ただ、一緒にいるだけです」
「なんなんだろな、この関係は」
世でいう恋人とは似ても似つかない。
互いを慰め合うだけの、歪んだ関係だ。
そんなことはお互いわかってて、救いのない世界で、ただ身を寄せ合っているだけだから。
「一緒に声を上げよう。俺たちこれから色々動くつもりで、萱島さんも、もちろんさんも手伝ってほしい」
「何デモでもすんの?未来を変えようオーとかって、無駄でしょうよ」
「何言われたって構わない」
「ネットであんだけ言われたい放題なのに?」
「私も、今何かを言うなんて怖い」
白浜さん、相変わらずだな。
ネットはもう随分と見てないけど、きっと今でもからかわれ、罵られ続けているんだろう。
それなのに、立ち上がるなんてできるわけない。
「でも俺たちには責任が」
「責任?なんの?」
「みんなを助ける」
「助からない。少なくとも俺は、助からないよ」
白浜さんに背を向ける萱島さん。
その顔は生気など無く、絶望に満ちている。
「こっちに戻ってきて思うのはさ、戻りたい。田中のおっさんが羨ましいよ」
「何でそんな風に」
「それはさ、この世界が最低でクソみてぇなとこだからだよ!」
萱島さんの言葉に胸が締め付けられ、涙が溢れてくる。
せっかく生き延びたのに、戻ったのに、こんなに苦しいだけなんて、
生きる意味なんて一つだって見出せないんだ。
萱島さんから聞いた母親の話を思い出した。
自分と弟を捨てた母親が、意気揚々とインタビューに答えていたらしい。
笑いながら話しをしていたけど、萱島さんの張り裂けそうな気持ちが、痛いほど伝わって、余計に一緒にいるべきだと思ったんだ。
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作者名:藍 | 作成日時:2023年8月20日 22時