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課題8 ページ9

こういう話をしたのは……学生の時以来か。



目の前で申し訳なさそうに縮こまる手のかかる後輩を片目で見て目を伏せた。





大方片割れと宇髄だろう。あの2人は学園内でも特に人気が高い。支持層は女子生徒が多数だし、2人に本気で恋心を抱く人間も少なくはない。



「表に出さないだけで何も変わっていないなお前は」

『んん……』

「俺からしたら片割れよりお前の方が面倒だったのだが」

『今は小言はやめてくれ……』


片割れは目に見えて彼女に執着しているから、いくらか理解しやすかったし対処もしやすかった。しかし目の前で眉を下げる彼女は、大人になるにつれそういった感情を周囲に隠すようになった。迷惑だと思ったのか、非常識だと思ったのか、その真意は定かではないが、感覚が麻痺している俺からしたら隠されるのは面倒だ。言いたいのなら言えばいいし、思ったことは言葉なり行動なりで示せばいい。


幼い時から一緒にいた宇髄、生まれる前から隣にいた杏寿郎。大人といえど幼心が無い訳ではない嘉柳にとって、自分から離れられるのは、簡単に言えば"寂しい"らしい。



『すまない……君に愚痴を言うつもりは無かったんだが……』

「話せと言ったのは俺だ。それにさっき言ったようにお前には数えきれない程の恩がある。困っているなら助けたいと思うのが普通だ」

『うむ……』


ここまで悩ましい姿を見るのは久しいな。先輩として、友人として、相談に乗るくらいは出来るだろう。

こいつであれば次の授業までに切り替えは出来るだろうが、このまま燻らせているのは良くない。それは十分に教えてもらった。



「嘉柳」

『!』

校内では呼んだことがない名前を呼んだら、少し驚いて顔を上げた。


「家に帰ったら片割れにこう言え。

"お前が取られるのは悲しい"とな」

『!……だが』

「お前は我慢しすぎだ。周りに気付かせないようにし過ぎて自分ですら気付けなくなっている。自分に厳しいのは結構だが、たまには甘やかしてやれ」

『……』

「俺からのアドバイスだ。もう少し素直になってみろ」

『……分かった』

「分かったのならいい」


煉獄はコーヒーを一気に飲み干した。


『ありがとう伊黒!おかげですっきりした!』

「礼はいい」

『今度何か奢ろう!では!』


晴れた顔で廊下に出て行った。






「……気付いてやれ、煉獄よ」


俺は誰にともなく呟いた。

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作者名:すみた先生 | 作成日時:2021年4月29日 9時

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