Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ38)

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大学を卒業したオレは、大手百貨店に就職した。

配属は外商部。
色んな意味で厳しい部署らしいけど、やったらやっただけ評価もされると聞いて俄然やる気が出た。

金持ち相手のお仕事。
ダテに心理学を四年間もやって来た訳じゃ無い。
これでも真面目に授業に出てたんだ。
授業料勿体ないし。

どうやったら彼らが気分良くお買い物してくれるかなんて、考えて、現場に出て、実践して...を繰り返してる内に身に付いた。

例えれば、ゲームをしてる感覚だ。
『攻略』なんだ。

でも先輩にひっついて行ってた研修期間を終えて、自分の担当するお客様が初めて出来た辺りからそんな単純じゃ無くなって。
仕事の事で悩む事も、落ち込む事も、腹が立つ事も増えた。

その頃、オレには彼女が居た。

大学で知り合った子で、あんまり目立っては無かったけどいつもニコニコしてて彼女が笑うと周りの空気まで穏やかになるような、そんな子。

告白はオレから。
大学の帰り道、駅でキミを見付けて...勢いだった。

「好きなんだけど！」

人目もはばからず、腕を掴んで言ったオレをキミは当然だけど驚いた顔で見上げて

「...私も好きです」

そう応えた。

付き合いは、もう三年になってた。
彼女はOLになって、オレんちに半同棲してる感じで家事も全部やってくれてた。

何となく「このまま結婚するんだろうなぁ」なんて思ってたし、それを負担だとも思わなくて。
きっとキミもそう思ってんだろうなって、信じてて。

だから、甘えても良いって思ってたんだ。

仕事で遅くなった日も、キミは寝ずにオレを待っててくれる。
自分だって次の日仕事なのに。
眠そうに目を擦る姿を、呑気に「可愛いなぁ」なんて思ってた。

キミは眠そうに笑って「カズくん、お疲れ様」って、ご飯を出してくれた。
それだけで疲れが取れて、だからオレはキミのご飯を楽しみに家に帰って。

でもいつの間にか、それが当たり前みたいに思ってしまってソファに寝そべり体調が悪そうなキミに向かって「ねぇ、ご飯は？」なんて言っちゃった事もあったっけ...。

そんな時でもキミは微笑んで

「ごめんね、簡単なもので良い？」

起き上がり、うどんを作ってくれた。

そう言えばあの時、オレはちゃんと『ありがとう』って言ったっけ？

思い出せないって事は、きっと言ってない。

オレが風邪ひいた時は、看病してくれたキミなのに。

オレは自分の事しか、考えて無かった。