Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ21)

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301.理由。ページ21

櫻井さんに、引き継ぎとかあるだろうから使って良いよと言われた会議室へ二宮さんと一緒に向かう。

「こちらです」
「はーい」

当然だけど、初めて見る顔の登場にオフィスはちょっとザワついてそれに気付いた二宮さんはピタリと立ち止まった。
そして、こちらを見てるスタッフ達を見てニッコリ笑う。

「おはようございます、初めまして。本日よりお世話になります、二宮和也と申します」

完璧な笑顔。
私にも見せてみろ、その笑顔。

「不慣れで分からない事もたくさんあると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願い致します」

二宮さんがお辞儀をしたら、自然と拍手が起きた。
大歓迎されてる。

世渡り上手が服を着て歩いてる。

「何だと？でも子」

会議室に入った途端、二宮さんに言われて心の声が漏れてたかもしんないなーなんて思った。
別に聞かれたって良いんだけど。

「何でも無いですよー」
「生意気な顔しちゃって」
「元々こーゆー顔です」

向かい合って座り、ムムム...と睨み合う。

でもすぐに二宮さんがプっと笑った。

「仕事しよ。ここは会社だったし、お前は先輩だった」
「そうですね。私は先輩でした」
「でも子先輩」
「高野です」

二宮さんが「ダメだ、お前見てるとすぐフザけたくなる...」と若干失礼なコトを呟いて咳払いをした。

仕事内容の引き継ぎをしながら、彼を見る。
真剣な表情で私の話を聞いて、どんどん自分の中に取り込んで行ってるのが分かる。

「とりあえず、基本はこんな感じです。後は働いてる内に智さんから色々と要望があると思うので、その都度対応して下さい」
「OK。ま、でも子が出来てたんだからオレなら余裕でしょ」
「何をー？」
「ハハッ、ウソウソ。実は秘書業務なんて、分かんない事だらけでちょっと不安」
「大丈夫ですよ、二宮さんなら」

私が言うと、彼はフフッと笑った。

「二宮さん」
「ん？」
「...どうしてこの会社に来ようと思ったんですか？」
「翔ちゃんの熱烈アプローチがあったからだけど。何で？」
「何となく、前のお仕事好きそうだなと思ってたから」
「あー......仕事は好きだったけどね。オレのやり方は結構ギリギリだった訳よ」

頬杖をついた二宮さんが「それこそ色恋沙汰ってやつだよね」と、眉を顰めた。

「上客の奥様を本気にさせちゃったの」

あぁ...そりゃ本気にもなっちゃうかもね...と、私ですら思ってしまうような表情で彼が呟いた。