Clear-Crane-Crime 9th【arsM.A】 (ページ22)

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302.タイミング。ページ22

「オレとしては、奥さんも恋愛ごっこじゃないけど、暇潰しみたいな感じでオレを使って遊んでんだと思ってたの」
「うん...」
「そしたら、突然『貴方がその気なら私は構わない』とか言われて。いやいやいや...待て待て！ってなるじゃん。...でもお客様だから」
「...どうしたの？」
「謝ったよ。土下座。そんな気持ちにさせたのはオレだからね」

ハァ...と大きな溜息。

「まぁ、良い人だったからね。ちゃんと話も聞いてくれたし、何なら奥さんからも謝られたよ」
「そっか...良かった」

何か大問題にでもなっちゃったのかと思った。
訴えるとか、示談だとか。

「良くないよ」
「え？」
「オレは自分の仕事の為に、人の気持ちを弄んじゃったって事だからね」
「あ...」
「色々と考えちゃったワケ。その頃からかな、翔ちゃんに誘われるようになって...そうだなー、それも良いかもなーと思って」

今に至る、と二宮さんが私を見て頷いた。

「人生、何でもタイミングだかんね。オレにとっては転職のタイミングだったんだろうなと思ってる」
「そうだったんだ。...大変でしたね」
「別にー」

笑う二宮さんを、強いと思う。
この人、きっと努力や頑張ってる姿を人に見せないタイプの人だ。

「じゃ、大野さんとこ行こっかな」

二宮さんが立ち上がったから、私も立ち上がる。

「あ、そうですね。えっと、そこの通路を...」
「案内してよ」
「え...でも...」

ピチーンとデコピンされた。激痛。

「いった！」
「でもって言うな」
「......」
「ちゃんと大野さんにオレを紹介しろ。今日から秘書が変わる事を、自分の口で大野さんに言って挨拶もしろ」
「......」
「最後まで責任持って職務を全うしろ。社会人だろ」

違う？と訊かれ、「違いません」と俯くと

「はい、行くよ」

彼は私の背中を押して、会議室を出た。

猫部屋のドアをノックする。
中から「はーい」と声がする。

「高野です。失礼します」

そう言って部屋に入ると、智さんは「もう来てくんないかと思った」って眉を下げて笑った。

「あ...、今日から私の代わりにこちらで働いて下さる二宮さんです」
「よろしくお願いします、大野さん」

語尾にハートがついてそうな声で、二宮さんがコテンと首を倒しながら言う。
ブリッコ。

「秘書が可愛い女の子から可愛くない男になっちゃった」
「はぁ？超絶可愛い男子だろうが。どこに目ぇ付けてんだ」
「怖い、可愛くない」

智さんがケラケラ笑ってる。