Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ5)

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145.胸と肩。ページ5

先生がメモ帳を千切って、鶴を折り始めてる事に気付く。

その姿をソファに座ったまま眺めてると、こっちを見た先生が私を手招いた。

私がカウンターの前まで行くと、彼は出来上がった鶴を私の手の上に乗せた。

「Aちゃんが、貰ってくれるんでしょ？」

そうだ、私そんなコト言ったな...って思い出す。

「はい...」
「もう俺が、何も壊さないように見張っててよ」
「...え...？」
「フフッ、じゃあ来週の水曜ね。最後の戦いだよ！」

いつもの笑顔に戻った先生が、ガッツポーズをした。

「はい。最後まで、よろしくお願いします」

ソォっと鶴を鞄の中に入れると、そこに入ってた漫画が目に入った。

「あ、これ！忘れる所でした！」

先生に漫画を渡して「...最終巻ですよ」と言葉を添えると

「こっちも最後か...」

そんな風にポツリと零す。

これ以上先生の側に居ると、今日の私は簡単に色んな物が崩れてしまいそうな気がした。

「あ...じゃあ、今日は失礼します」
「うん。またね」
「はい」

クルリと先生に背を向けて

一歩、足を前に出した時だった。

「Aちゃん！」

後ろから、手首を掴まれて

少し引き寄せられたと思ったら

先生の胸が、私の肩に当たった。

「...軽蔑、した？」

消えそうな声。

「誰かが大切にしてる人を奪うような奴...、軽蔑するよね...」
「......」

先生の声が、真上から落ちて来る。

私は先生に背中を向けたまま、その声を聴く。

「でも、黙ってるのは嫌だった」

カチカチ...と、時計の音。

先生の心音が、私の体にもダイレクトに伝わって来る。

「軽蔑なんて...しません。できません...」

喉の奥がグっと詰まった。

「先生は話してくれたのに、私は黙ってるなんて...卑怯ですよね」
「...Aちゃん？」
「...私も...」

言うな！って、頭のどこかで自分を止めようとしてるのか上手く声が出せない。

無理やり喉を開くようにして、言葉を押し出した。

「...私も...好きになってはいけない人に恋をした過去があります...」
「...え...？」
「私も...幸せな家庭を...壊しました...」
「...Aちゃん...」

先生に掴まれてる手首が、熱い。

「だから...もう二度と恋なんかしちゃいけないって...」

なのに、私は恋してしまった。

貴方に、こんなにも恋い焦がれてしまった。

先生がどんな顔してるか...って思ったらもう振り返れなくて、手首を掴んでる先生の手をほどき

私は、そのまま病院を出た。