Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ31)

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171.寄り道。ページ31

玄関から出て門扉を開けた所で

「アハー、緊張したぁ...」

先生が手を後ろに回してお尻からサングラスを取りながら、気の抜けた声を出した。

「先生」
「ん？」
「ありがとうございます。凄く...嬉しかったです」

こんな風に親に挨拶して貰える事が、ここまで嬉しいなんて知らなかった。
人に隠さなくて良い恋愛って、ここまで幸せだったんだ。

私は色んな事を忘れてたし、知らずにいたんだ。

「何故かチャーハン食べに来る事になっちゃいましたけど」

何だか嬉しくて泣いちゃいそうだったから、誤魔化すように笑って言う。

「すっげぇ楽しみ！俺、チャーハン大好きなんだよねー」

頭にサングラスを乗っけた先生が、車にキーを向けて開錠して助手席のドアを開けた。

「はい、どうぞ。乗って？」
「あ...失礼します...」

先生の車は変に車用の芳香剤が香ってるって訳でも無くて、普通の車の匂いと煙草の匂い。
そこに先生の香水の匂い。

先生が運転席に座って「あちぃ...」って顔を顰めながらエンジンをかけた。
エアコンの温度を調節してる横顔に流れた汗を、手の甲で拭ってる。

気にならない程度のボリュームで洋楽が流れ始めた。

「Aちゃん、行きたいトコあった？」
「あ...」

そうだ、まだ決められてなかった...どうしよう。
とりあえず、『どこでも良い』だけは避けて話そう。

「街じゃなくって、車だから行ける所が良いかなぁ...って」
「うんうん、そうだね。せっかくだし！」
「先生はどんな所が良いですか？」

あ！しまった...質問返しだ...

「俺ー...は、思いっきり遊びたいかな！良い天気だし！」

やっちゃった...と思ったのに、先生はナビのタッチ画面をトントン叩いて操作しながら笑った。

「Aちゃんは、絶叫系って平気？」
「絶叫系って、ジェットコースターとか？」
「とか」
「フフッ、平気です」
「じゃ、決まり！」

自然な流れで行き先を決めてくれた先生が、頭に乗っけてたサングラスを目元に下げる。

「しゅっぱーつ」

別に声を張る訳でも無く、独り言のように出て来たその言葉が可愛い。

車は高速に乗り、暫く走った時にSAに寄った。

私がお手洗いに行ってる間に、先生は缶コーヒーを買ってたらしく飲みながらこっちに歩いて来る。

「暑いー！溶けそう！」
「ホント、ジリジリしますね！」

ノースリーブから出てる自分の腕を見てると

「飲む？」

飲みかけの缶コーヒーを渡されて、間接キス！なんて高校生みたいに心の中で喜んだ。