Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ30)

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170.お辞儀。ページ30

私のその遠慮がちな視線に気付いてくれた先生が、私を見て微笑んでた口元をもう少しだけ緩めて笑ってくれた。

それだけで変に緊張してた気持ちが解れる。

先生が、静かに息を吐き出してもう一度うちの両親の方に顔を向けた。

「改めまして、相葉雅紀と申します。先日より、Aさんと交際させて頂いてます」

やっとお母さんもどーゆー状況なのか理解したらしく、また「えぇぇ！？」って大声。

「お母さん、ちょっと！声おっきい！」
「だって驚くでしょう！？相葉先生よ！？あの相葉先生よ！？」

そうだよね、私だって今クラクラしてるもん。
あの相葉先生が、うちの親に自分が彼氏なんだって挨拶してるんだもん。

気を抜いたら倒れそうだよ。

「そうですか」

ワーワーしてるお母さんとは対照的に、お父さんが静かに呟き先生を見た。

「ここは『相葉くん』...と呼ばせて貰っても良いのかな」
「はい、勿論です」
「相葉くん、Aはどこにでも居るような普通の女の子です。取り柄も...ちょっとすぐには思い付かないような子です」

おーい、お父さんサラッとディスらないでー。

「だけど、親にとっては大切な可愛い娘です」

落としてからの、その台詞はちょっと反則。
何も言えなくなる。

「なので、大切に可愛がってやって貰えるかな」

お父さんの言葉に、先生は一度頷いて

「はい」

余計な事は何も言わず、その返事だけをハッキリと言ってくれた。

「まぁAももう良い大人だから、娘の交際に親が口を出す気は最初から無いし」

なぁ、ってお父さんはちょっと笑ってお母さんに言う。
お母さんは「相葉先生が娘の彼氏だなんてもう、大歓迎！」ってまだ興奮してるし。

「ありがとうございます。今後とも、よろしくお願いします」

また先生が綺麗なお辞儀をする。
ここは私も一緒に頭を下げておく。

「ってゆーか、ほら！こんな所で...先生、良かったら上がって行って！」

お母さんが「ほらほら！」って両手で手招いてる横で、お父さんはお客様用のスリッパを出し始めてる。

「あー！私達、今から出掛けるから！」

慌てて私が言うと「そうなの？」って顔の二人。

「せっかくチャーハン食べて貰おうと思ったのに」

嘘でしょ、お母さん！
それ残り物で作ってるやつでしょ！？

「チャーハン！じゃあ、また改めて伺わせて貰っても良いですか！？」

嘘でしょ、先生食いついた！

今度はチャーハンを食べに連れて来ると約束して、私達は家を出た。