Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ3)

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143.全滅。ページ3

週が明けて、水曜日。

歯医者に行く日。

相葉先生と会うのは、あの日以来。

あんな話を聞いてしまって、私はどんな顔をしてたら良いんだろう...と考えながら、仕事帰りに相葉歯科までの道を歩いた。

先生は、どんなつもりであの話を私にしたんだろう...。
話の流れや、その場の空気？
それとも他に何か意味があって...？

今日まで何度も同じことを考えたけど、そんなの答えは先生しか知らない事だ。

「......」

こんなに歯医者さんの扉を開くのが怖いと思ったのは、久々。

ソ...っとドアを開けると、暗い待合室。

中に入って、フゥ...と小さく息を吐き出す。

「...こんばんはー...」

思った以上に小声過ぎたから、咳払いをしてもう一回。

「...こぉんばんはぁー！」

今度は声を出し過ぎて、慌てて両手で自分の口を押さえる。
今押さえたところで、もうさっきの大声は取り消せないんだけど。

二階から、バタバタと足音が聞こえる。

その音が近付いて来て、待合室に白衣を羽織った先生が降りて来た。

「ごめんね、お待たせ！」
「あ、いえ！...全然、待ってません」

いつもと同じようにニコっと笑ってくれた先生に妙に安心してヘラヘラしちゃう。

「じゃあ、治療しよっか」
「はい」
「もうちょっとで全滅だからねー」
「...え？」
「ん？」
「...あ！全滅ですか...そっか」

全滅...って事は、虫歯が無くなるってコト...？

って事は...

「通院もあとちょっとで終わるよ。完治までもう少し！」

喜ばなきゃいけないのに、喜べなくって

でもそんなの不自然なのは分かってるから、必死で「やったー」なんて言ってみたけど余計に不自然だった気がする。

診察台に座った私に、何気無く「お仕事お疲れ様」って言葉を掛けてくれる先生の声が好きで

治療中に時々チラチラと盗み見したその横顔が好きで

私の口元に触れる指に、心臓壊れそうな程にドキドキして

そんな時間が、もうすぐ無くなる。

...通院が終わったら、もう先生に合う口実が無くなるんだ。

あと、何回？

この時間は、あと何回あるんだろう...。

「次回が最後だね」

受付で会計をしてる時、先生は優しい声で私に言った。

「...え...次回で...？」
「うん。次回が最後。よく頑張ったね！」
「あ......はい...」

終わりが来るのは分かってたのに

MIYABIに行けば、会えるかもしれないのに

通院は、終わる。
終わってしまう。

この現実が、こんなにも寂しい。