Clear‐Crane‐Crime 5th【ars M.A】 (ページ1)

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141.こんなコト。ページ1

智さんが、ジィっと私の目の中を覗き込む。

抵抗しようと、掴まれてる腕に力を入れたけど

細いと思ってた智さんもやっぱり男の人。
私の腕は、ちっとも動かなかった。

「ふふっ」

鼻と鼻が触れそうな位まで顔を近付けて来てた智さんが、突然小さく笑って

「あぶね」

呟く。

「チューしそうになった」

アハ、ってまた笑ってほんの少しだけその顔が離れた。

離れたって言っても、普通はこんなに顔を近付けて喋らないよね？って程度の近距離。
変わらず腕は掴まれてるし、頬にも触れられたまんま。

「...こら！だめじゃないですか！」

思わず叱る調子で放った私の声は、若干上ずってた。

「だめ？あ、チューした方が良かった？」
「はっ！？もう！そうじゃなくって！！」
「ちがう？」

ちょっと唇を尖らせキョトンとした顔で、首を傾げる。

「こんなコトするから、みんな智さんを好きになっちゃうんですよ！？」

普段のあのぽやぽやしてる雰囲気に母性本能を擽られて、その上突如こんなオスっぽさ出されるのが日常だったら

きっとキリリとしてる女性だって、フラフラ堕ちちゃっても仕方無いって！

私だって、ちょっとドキドキしちゃったし...。

いや、私だけじゃ無い！
世の中の女子全員、ドキドキするって！！

「好きになられたら、だめなの？」
「え...？」

腕を掴んでる智さんの手に、グっと力が入ったのが分かる。

「おれだって、好きになって欲しい」

少しも笑わない彼が、私から目を逸らさずに話す。

「好きな人には」

智さんのその言葉を聞きながら、この人はこんな顔もするんだ...と、思った。

部屋がシン...とした次の瞬間

「智くん！これって何の図面だっけ！？書類落としてゴッチャになっ......」

バーン！とドアが開き、早口で捲し立て喋ってる櫻井さんが入って来て

私達の姿を見て、目を真ん丸にして手に持ってた書類を落とした。
驚き方が漫画みたい。

でもそれも仕方無いと思う。

だって、ソファでこれ以上無いって位にひっついて座ってる(私が端っこに追いやられただけなんだけど)上に私は智さんに頬に触れられてるわ、手首掴まれてるわ。

まるで『そーゆー現場』。

「翔くん、ちゃんとノックしてよ」
「...あっ！ごめっ...！」

櫻井さんはバタバタと部屋を出て行ってバターン！とドアを閉めたと思ったら

「待て待てー！職場で何やってんだー！！」

すぐにまたバーン！とドアを開いた。