Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ7)

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112.隠す。ページ7

「何でそっち方面に考えたのか、ワケわかんねんだけど」

可笑しくてたまらないって感じの二宮さんが、笑いながら言う。

「だって...先生は女の子を好きにならないって...」

あぁ...そうだよ、そんなコトを言われたんだよ...。

きっと、その言葉を真っ直ぐ受け取るのを拒否した頭が思考をおかしな方向に持ってったんだな...。
完全に現実逃避、情けない...。

ハァァ...と自分でも驚く程に大きな溜息が零れた。

先生と少しでも近付けたと思って浮かれてた心が、シオシオと萎んでく。
油断したら泣きそう。

「なぁ、でも子」
「.....はい」
「アイツがどーして本当は歯医者だってコト、ここで隠してると思う？」
「...それは...」

───『まぁ...面倒でしょ？色々と』───

先生がここで私に言った言葉を、思い出す。

「やっぱり...お医者さんって信用が大切だし...ご年配の方とかだとDJってチャラいと思われるかもしれない...からかな...」

先生の医院での雰囲気や態度は、そんな事で信用が無くなるようなそれでは無いけど。
世間とゆーのは、意外と簡単に人のイメージを180度変えてしまったりもするから。

「それだと『何でDJしてるコトを病院で隠してると思う？』だろーが」
「...え？」
「そーじゃなくて、逆。だってさ、考えてみ？DJしてて、ほれ、ンフッ。あんな格好付けてて」

ブースの先生を、二宮さんは顎でしゃくった。

「その上、普段は歯医者なんて無敵じゃね？」
「あー...」
「でもそれを隠してる。だからここでDJしてる以外、アイツって謎なの。プー太郎かもしんないワケ」
「.....」
「オンナノコって現実的だから、そーなると本気では好きになんないモンなのよ」

あーダメンズ好きな子は別ね、ってちょっと笑う。

「アイツが素性を隠してんのはね」
「.....」
「本気の恋、されないように」

二宮さんが、ポツリと呟いた。

「誰からも、本気で好かれないようにだよ」

ポツリ、ポツリ。

「だから、でも子が本気なら忠告してやろうと思ってた」
「.....」
「まぁ、アソビでも良いってゆーなら頑張れって応援してやるけど」
「.....」

何をどう言えば良いのか、分からない。

ただ、心臓がずっとバクバクしていて

大音量で音楽が響いてる中だというのに、自分の心音が耳に届いて来る。

「アイツは無理だよ。やめた方が良い」

二宮さんの声は、少し残酷な程に柔らかい。

もっと、尖った声で言われた方が

すんなり受け入れられる気がする。