Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ33)

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138.告白。ページ33

駅からは私の家よりも相葉歯科の方が近い。

そこの角を曲がったらもう先生の家、私の家はここから直進...ってゆー曲がり角。

「じゃあ、私はここで」
「あ、ちょっとここで待ってて！」
「えっ？」

私の返事を聞く事も無く、先生はスーツケースを引っ張りながら走って行く。

『待ってて』と言われてしまったから、そこでジっと待つ。
『待ってて』と言われた事が嬉しくて、ソワソワしてしまう。

忠犬のようにそこを一歩も動かず立っていたら、手ぶらになった先生が走って戻って来た。

「お待たせ！行こっか」
「え？」
「家まで送るよ」
「...送...る、って私を？」
「他に誰が居るんだろう」

ウハハって笑った先生が、歩き出す。

「先生、あの...」
「ん？」
「...仕事でお疲れなのに...」
「んーん、だいじょーぶ」

前を開けて着てる先生のジャケットが、風でフワリと靡いた。

「暑くなって来たけど夜は気持ち良いね！」

夜風を受けた横顔が綺麗で

綺麗過ぎて、何だか守ってあげたい...と思ったのは、あんな話を聞いたばっかりだからなのか。

さっき返して貰った漫画の話をしながら、私の家に着いて

「次の巻、持って来ますね」

返して貰った物の続きを部屋から持って来て、外で待ってる先生に渡した。

その表紙を見て「寝る前に読も」と言った先生が「あ」って顔を上げる。

「約束、覚えてる？」
「約束？」
「来週の水曜」
「だからそれ、予約ですって！」
「予約だって約束だよ」

クスクス笑い合うこの時間が、今の私には何よりも嬉しい。

「そろそろ行こうかな」
「はい。ありがとうございました。...色々と」
「ううん、俺もありがと。色々と」

バイバイ、と背中を向けた先生が

そこで暫く立ち止まって

また振り返った。

「......黙ってると、騙してる気になるから...言っとく」

私の目を、ジっと見てる

「俺が壊した物は、ね」

穏やかそうなその目元に、見た事無い位の翳りが浮かんだ。

「幸せな家庭」

静かに、何の抑揚も無く言った彼は

薄く笑って、もう一度「バイバイ」って呟き背中を向け、今度は振り返る事無く歩いて行った。

心臓が、痛い。

『俺が壊した物は、ね』
『幸せな家庭』

先生の後姿が見えなくなるまで、見えなくなっても、その場から動けなかった。

「...先生...」

先生と私は

...同じ罪を抱えているのかもしれない。

これまでの色んな事が、繋がって

無意識に止めてた息を思い出したように吸い込んだ。