Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ27)

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132.社長室。ページ27

会社に戻り、私はすぐ櫻井さんを探した。

オフィスに姿が見えないから社長室へ向かう。

扉をノックをすると、中から「はい」と切れの良い声。

「高野です。ご報告があります」
「どうぞ」
「失礼します」

フゥ...と小さく息を吐き出し部屋に入ると、櫻井さんはデスクから立ち上がり真ん中に置いてある応接セットへ移動して来て

ソファに座って大きな目で上目遣い気味に、立ってる私を見上げる。

「報告って？」
「あ...はい、今日のストームカンパニーとの打ち合わせの件で...」
「それなら智くんから聞いた。アポの確認、しなかったんだ」
「...はい。失念してました。申し訳ありません」
「俺、ちゃんと頼んだよな？変更あったから確認しろって」

はい、と答えたつもりなのにちゃんと声が出なくてもう一度「はい」と答えた。

「まぁ、すぐに確認できない業務時間外に言った俺も悪かった」
「いえ...言われてすぐ確認に戻る事も出来ましたし、あの日から今日まで確認できるタイミングは何度もありました」
「そうだな」
「誠に申し訳ありませんでした」

頭を下げたまま唇をグっと噛む。

「今回は何の被害も出てないから、もう良いよ」
「......」
「でもひとつの失敗が会社にとって大損失になるかもしれないって事は、ちゃんと覚えとけよ？」
「...はい」

顔を上げると、櫻井さんはさっきまでの厳しい表情を崩し少し笑ってる。

「一回失敗したら余計に気を付けるようになるだろ？」
「はい」
「人生に何にも無駄な事なんか無い。失敗だって大切な経験だ」

櫻井さんと智さんは言い方やニュアンスは違うけど、考え方が同じ方向を向いてるんだ...と気付いた。

全然似てない二人だけど上手く行くのは、こーゆー部分なんだろうなと思った。

気持ちを入れ替えて午後の業務をこなし、ノー残業デーだから社員みんな定時で会社を出る。

智さんに「申し訳ありませんが明日もスーツでお願いします...」と言うと、彼は「そんなにおれのスーツが見たいなら仕方無いなぁ」なんて笑った。

電車に揺られ地元の駅に着くと、何だか一気に疲れが出る。

甘い物食べたいなぁ...と駅前のコンビニに入ろうとしたらトントンと肩を叩かれ

振り返ると頬にその人の指がサクっと突き刺さった。

「Aちゃん！」
「...えっ！？」

その指の主は目尻に皺を寄せ、無邪気に笑って

「...先生...っ！」
「引っ掛かったー！」

プニプニとその指で、更に私の頬を押した。