Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ28)

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133.彼も。ページ28

私の頬に触れてる指先と

クシャっと力の抜けた笑顔に

シオシオと萎れてた心が、ふっくらと膨らんだ気がした。

「お疲れ様！」
「...お疲れ様です」

あ、先生もだ...と思ったのは、彼もスーツを着ていたから。

濃紺の細身なスーツに白いシャツ、緩めたライトグレーのネクタイ。
その傍らには、シルバーのスーツケース。

「先生、ご旅行...？」

...では無いよね、と言ってすぐに思った。
旅行にしては格好が堅すぎる。

「ううん、仕事」
「ですよね」
「泊まりで学会があって、その帰り」
「学会...」

そうだ、この人お医者様だった...って思い出す。
『先生』って呼んでるくせに、時々忘れてしまうのは彼の纏ってる雰囲気のせいだろう。

「あ、そう言えばこの週は仕事で忙しいって言ってましたね！」
「そうそう！やっと解放されたー！勉強し過ぎて頭パンパン」

これ以上詰め込んだら耳から脳みそ出て来そう...ってウンザリした表情。

「Aちゃんも仕事帰り？」
「あ...はい」

今日の諸々をまた思い出して、私も自分にウンザリしてしまう。

「コンビニ寄って帰るの？」

先生が私の入ろうとしてたコンビニを見た。

「何か疲れたんで、甘い物でも食べようかなーって。やけ食いです！」
「やけ食い...って事は、何か嫌な事でもあった？」
「あ...」

しまった...。

「ねぇ、Aちゃん。もう夕飯食べた？」
「まだ、ですけど...」
「俺、ちょー腹減ってんの！そこのファミレス付き合って！」
「えっ！？」
「ファミレスだったら甘いモンもあるよね？パフェとか」

戸惑ってる私にお構いなしで、先生は「ね！」ってニッコリ。

その笑顔に私は弱い...弱すぎる...。激弱。

「...はい」

私が頷くと、先生も頷きスーツケースをコロコロ引きながら歩き出した。

何というかまぁ...凄く絵になる後姿。

これで腕時計でも見たら更に凄いな...なんて思ってたら、先生が左腕を軽く伸ばして袖を上げて本当に腕時計を見たもんだからちょっとクラクラ。

「時間は大丈夫？」
「あっ...！はい！大丈夫、です...はい」

しどろもどろ。

ファミレスに着いた頃には、さっきまで落ち込んであんなに沈んでた気持ちが嘘みたいに

私の胸はキュンキュンしたり、ドキドキしたり、浮かれっぱなしで自分でも笑えた。

「いらっしゃいませ、何名様ですか？」

店員さんの問い掛けに指を二本立てて「二人です」って先生が答えてるだけで

どうしてこんなにも、嬉しくなるんだろう。