Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ21)

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126.スーツ。ページ21

翌週の水曜。

今日は仕事終わっても歯医者無いんだなぁ...なんてちょっとしたガッカリ感と共に始まった一日。

でも週末のミヤビナイトの事を思い出したら胸がキュウゥゥ...って縮むようだし、頬は勝手に緩む。

まだ誰も居ない猫部屋で、緩んだ頬をパンパンと叩いて「仕事仕事！」と気合を入れ直してたら、部屋のドアが開いた。

「おはよー」
「おはようございます、智さん。あっ！ちゃんとスーツ着て来て下さったんですね！」

そこに立ってる彼は、いつもの真っ黒姿じゃなくて仕立ての良いスーツを着ている。

色はやっぱりスーツもネクタイも黒だけど。
でも、シャツは綺麗なデニム地でそんな部分にデザイナーっぽさを感じる。

「昨日あれだけ釘刺されて、今朝も『スーツですよ！』ってメール貰ったらさすがに忘れないよー」
「フフッ、良かったです」
「約束、何時だっけ？」
「11時です」
「りょーかぁい」

間延びした返事をしながら高そうなジャケットを、やっぱりいつものようにポイっとソファに投げるから

私もいつものようにそれを拾ってハンガーに掛ける。

今日はクライアントとの打ち合わせがある。
あちらのオフィスに出向いての打ち合わせなんだけど、櫻井さんから今回は自分の都合が合わないから私が同席するように言われてた。

私で大丈夫なの...？って思ったけど、櫻井さん曰く「仕事になると智くんはちゃんとやるから大丈夫」って事だし、とりあえず自分なりに必要最低限のクライアントの情報と今回のプロジェクトについて勉強して準備は整えた。

朝ココアを用意して、窓辺に智さんと並んでしゃがみちょっとだけ外を眺めて

「良い天気だねぇ」「そうですねぇ」なんておじいちゃんおばあちゃんみたいな会話を交わす。

「今日の移動って車？」
「はい、社用車を私が運転しますよ」
「電車にしよーよ」

智さんがそう言うから、私は先方までの電車でのアクセス方法や所要時間を急いで調べた。

「そろそろ出ましょうか」
「うん、行こっかー」

PCの前から立ち上がった智さんにジャケットを差し出すと、それを受け取り歩きながらバサっと羽織る。

普段ぽやぽやーっとしてる人だから、余計にこんな仕草が男らしく見えて「おぉ...」と小さく声が漏れてしまった。

「ん？」
「あ...、いえ！行きましょう」

私が開けたドアから智さんがふわっと出て、私もその後に続く。

ビルの外に出ると陽射しが眩しいのか智さんは猫みたいに目を細めた。