Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ19)

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124.初恋。ページ19

「良かった？」

先生が私を見てキョトンとする。

「はい。少年相葉くんが、楽しいと思える学生生活を送れてて良かったです」

学ランを着て俯いてたあの少年が、辛い想いだけをしてたんじゃなくて良かった。

「...フフッ、優しいね」
「えっ！？そんなコト無いですよ！？腹黒です！」
「アハハッ！本当に腹黒い子はそんな自己申告しないよ」

目尻に皺をキュっと寄せて、先生が笑う。

「先生の方が...優しいですよ」
「え？」
「...あっ！！えっと、ほら！怖くない歯医者さんなんて初めてですし！」
「あーそれは親父譲りってゆーか、親父の教えのお陰だね」
「相葉先生ですね」
「俺も相葉先生だけどね」
「あ、そうだった！相葉パパ先生！」

...って、パパ先生って何だよ！
お父さん先生で良くない！？
自分の発言にまたすぐ後悔。

先生「パパ先生！」ってめっちゃ笑ってるし...

でも、その笑顔にホっとする。

先生が笑ってると、私まで嬉しくなる。

「医者はどうしたって怖がられるし嫌われるんだ、って。でも思いやりを持って接したらちゃんとその想いは伝わるから、って」
「フフッ、分かります」
「分かる？」
「はい。だって、先生のお父様は本当に優しいお医者さんでしたもん。出来ればずーっと、大人になっても先生に診て欲しかったです」

優しい声と、優しい目。
安心する大きな掌を思い出す。

先生に会いたくて、無理やり風邪を引こうとした事もあったっけ。
先生に撫でて貰ったら、どんな病気でも治るって思ってた。

「Aちゃん？」
「はい」
「何かウットリしてない？」
「ウッ...トリ！？」

初恋の人に少しだけ顔が似てる、今の私が恋してる人が顔を覗き込んで来る。

「まさか、親父のコト好きだったとか言う？」
「えぇっ！？そっ...！ちがっ...！」
「Aちゃん、枯れ専なの？」
「枯れ専じゃないですよ！...今思うと、あれは憧れってゆーか...」
「親父に恋してたんだ。初恋？」

あーーー！墓穴！！

もう隠し通せないと思った私は「...はい」と頷いたまま、顔を上げられなくなった。

「悔しい」
「...え？」
「親父にAちゃんの初恋奪われた」

ビックリして顔を上げたら、先生は悪戯っ子みたいな顔してて

「同世代の俺じゃ無くて、親父」
「だって...！あの頃はあんまり先生には会う事無かったし...」
「じゃあ、あの頃出会ってたら」

悪戯っ子な顔が、スゥっと大人の表情になる。

「俺を好きになった？」

息が止まりそうだ...。