Clear‐Crane‐Crime 4th【ars M.A】 (ページ14)

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119.雪道に足跡。ページ14

「飾り...」
「うん」

スルスルとおしぼりの上を滑ってる、先生の指先を眺める。

「だってどんな美人でも、俺んとこ来たら面白い顔になるよ」
「...あ、病院？」

周りに聞こえたらいけないと、小声で話す。

「そうそう。あんなに大きく口開ける事なんか無いでしょ、普段」

先生もさっきより少しだけボリュームを押さえた声。

「でも、それが可愛いって思うんだよね。無防備だし」
「......」
「こんな顔、俺にしか見せないんだろうなぁって。秘密を知った気分」
「秘密...」

フフッて笑った先生が

「俺ね、綺麗な物を壊したくなんの」

私を見た。

「誰も踏み入ってない雪道に足跡をつけたくなる」
「......」
「凪いでる水面に石を投げたくなる」
「......」

その目は澄んでて、話してる内容と若干のズレを感じて

でもそれが、妙に色っぽくて...見ていて苦しい。

「仕事で壊れかけた歯を治してるから、その反動で壊したいのかも」
「...反動、ですか...」

先生の手元のおしぼりが、ふわふわとした鶴に形を変えていた。

「まぁ、それだけじゃ無いかもしんないけどね」

言葉と同時に先生の手が、その鶴の上に乗って

それを、ギュ...っと押し潰した。

「そろそろベース戻らなきゃ、心配するかな。おーちゃん辺りが」
「智さんがですか？気にしてないと思いますけど...」
「フフッ、だったら良いんだけどね」

先生がジョッキを持ち上げて、残ってたビールを一気に飲み干し

「戻る前に、トイレ行っとこ」

椅子を立ち、トイレの方へと歩いて行った。

「大丈夫ですか？」
「あ...」

潤さんがさり気無く私の前に立って、静かに微笑む。

「先程の女性は、どなたにでもあんな感じですから」
「えっ！？いや...あの...」
「男性だけじゃなくって女性にでも抱き着くタイプの子ですから、お気になさらず」
「あ...えっとー...私は別に...」

ダメだ、バレてる...
私が先生にウットリしてたのとか、潤さんにはバレバレだった...

もしかしたら二宮さんから聞いた？
...それは無いか、彼にバレたのもさっきだし...って事は、私って超分かり易いって事！？

「あの...潤さん、このコト先生には...」
「バーテンダーは空気ですから。何も見てないし聞いてませんよ？」

フフッ、と笑った潤さんは決して空気なんかじゃないけど。
存在感ありありだけど。

「ただいま」

先生が戻って来て、「行こっか」って私の座ってるスツールの背凭れに手を掛けた。