69. 嗚咽 ページ33
「ナイフで直接切ったんですか」
「…ああ」
詳しいことはそれ以上聞かないでおこうと思った。彼もそのことを思い出したくはないだろう。だが、もう一つだけ気になることがあった。
「京介は。…京介は、その時どこにいたんですか」
そう問うと、彼は表情を変えずに答えた。
「わからない」
見てないんだ、と彼は呟いた。彼は全てをやり遂げたような、気力を失ったような様子をしていた。
私はそうですかと返した。彼はそれ以外に何も言わなかった。
直接やったのか。普通は、そこまでできない。
覚悟がなければ、そんな惨いことができる訳がない。それに、相手は過去の自分だ。
私は自分を律し、自分の感情に呑み込まれないようにしながら彼に再度向き合った。
「優一さんの覚悟がよく伝わりました。話してくれてありがとうございます」
彼はただ、「弟にサッカーを返したい」だけだ。それだけだ。
それだけのために、彼は過去の自分を傷つける程の行動ができる。
それが正しいのかはわからない。だけど、他人を傷つけることなく、自己完結しているのだから第三者の私がとやかく言うことではない。どんな形であれ、彼の覚悟には敬意を払うべきだ。
真実を正直に話してくれたことに対して感謝を伝えると、途端に彼の様子が変わった。
「どうすればいいかわからなかったんだ」
今まで表情を崩さず、声の調子も変わらなかった彼が、初めて素を曝け出した。彼は片手で自らの顔を覆いながら、小さく嗚咽を漏らし始める。彼は「高校三年生」であり、未成年であり、大人に近い子どもだった。頼り甲斐のある優しい兄の姿はそこにはなかった。一人の人間がそこにいた。
「京介にサッカーを返せなくなるって、思った。どうすれば、元に戻るか、考えた」
声が震えている。浅い呼吸に合わせて肩が小さく上下している。
「負けるなんて、思って、なかった。自信があった、んだ」
「優一さん」
「俺は、無力だ。こうすることしか、思いつかなかった」
彼は次々と溢れる涙を両手で拭った。紺色の髪が涙に濡れて、頬に張り付く。
断片的に聞こえる言葉を必死に聞き取る。私はどうすれば彼に寄り添えるのかを考えていた。
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ルナストーン(プロフ) - …っ！？（何が言いたいか:最初から照れさせる気だったんですかぁっ！？） (2020年10月12日 0時) (
レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - ルナストーンさん» 読者の方を照れさせるつもりで書いたので良かったですー！ハハ (2020年10月12日 0時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ぁ…因みになんですが…消しても大丈夫です。僕は…。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» （［甘い戯れ］の後のやつの最後に向けてなのです）こちらも見ていて何故だか恥ずかしくなります。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 夜月さん» 見てみたいですね〜。いえいえ (2020年10月11日 22時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：充滞 | 作成日時：2020年10月10日 21時
