58. 残酷な忍耐の数分間 ページ21
私は目の前の光景に夢中になっていた。
幼い京介と幼い優一。おそらく京介は小学一年生、優一は小学六年生だ。言葉に出さずに、私は心の中で「可愛い」と連呼しながらそれを見ていた。
「にいちゃん!」
「京介は本当にサッカーが好きなんだな」
幼児が二人走り回っている。今では考えれらない程、無邪気にサッカーを楽しむ姿があった。
「ファイアトルネード!」
「かっけー!!もっかいやって!」
「しょうがないな」
優一がボールを蹴る。襟を立てている様子や、しっかりと左足で蹴っているのを見て、豪炎寺のファンであることは嘘ではないのだということを知った。
その光景に視線を奪われているのは私だけではない。天馬ら全員が同じ方向を見つめていた。物陰から見守る間、私たちの空気は和やかになっていく。しかし、フェイやワンダバ、優一さんのみが顔を硬らせていた。この先起こることを知っているからだ。
「...そろそろかな」
「ああ」
京介はボールを求める。優一はパスをした。
兄の軽やかなボールの扱いに憧れるように、弟も同様のことをした。しかし、蹴ったボールは放物線を描いて宙を舞い、木の枝の間に挟まった。
「...!」
その場に戦慄が走った。
神童さんと信助は何が起こったのかわからないような様子だが、他のメンバーは表情を変える。
木の下で兄弟が困っていた。私はすぐに駆け出して助けたい気持ちになったが、必死にその思いを抑える。私がここで彼らを助けてしまえば、ここに来た意味がなくなる。そもそも、今までの改変された歴史こそ、優一が助かった歴史なのだから。
それに、優一を助けることは、ここにいる優一さんの覚悟を無下にすることと同義だ。
だから、何もできなかった。助けることは許されなかった。
しかし、現実で悲劇が起ころうとしている。それを黙って見過ごせというのか。そんなの、残酷すぎないか。一人の人間が下半身不随になる未来を待ち望めというのか。
「剣城...」
天馬が小さく呟く。それを聞き、我に返った。
そうだ。止めたいのは私だけではない。天馬も同じなんだ。きっと優一さんも、フェイも、ワンダバもそうだろう。
耐えろ。今は耐えるんだ。
京介が木を登り、サッカーボールがあるであろう位置に向かって小さな手を伸ばす。優一はその様子を下から不安そうに見つめていた。
今すぐに止めたい。助けたい。
それは耐えがたい現実であった。
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ルナストーン(プロフ) - …っ!?(何が言いたいか:最初から照れさせる気だったんですかぁっ!?) (2020年10月12日 0時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - ルナストーンさん» 読者の方を照れさせるつもりで書いたので良かったですー!ハハ (2020年10月12日 0時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ぁ…因みになんですが…消しても大丈夫です。僕は…。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ([甘い戯れ]の後のやつの最後に向けてなのです)こちらも見ていて何故だか恥ずかしくなります。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 夜月さん» 見てみたいですね〜。いえいえ (2020年10月11日 22時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:充滞 | 作成日時:2020年10月10日 21時