検索窓
今日:1 hit、昨日:6 hit、合計:27,826 hit

58. 残酷な忍耐の数分間 ページ21

私は目の前の光景に夢中になっていた。



幼い京介と幼い優一。おそらく京介は小学一年生、優一は小学六年生だ。言葉に出さずに、私は心の中で「可愛い」と連呼しながらそれを見ていた。



「にいちゃん!」
「京介は本当にサッカーが好きなんだな」


幼児が二人走り回っている。今では考えれらない程、無邪気にサッカーを楽しむ姿があった。



「ファイアトルネード!」
「かっけー!!もっかいやって!」
「しょうがないな」


優一がボールを蹴る。襟を立てている様子や、しっかりと左足で蹴っているのを見て、豪炎寺のファンであることは嘘ではないのだということを知った。



その光景に視線を奪われているのは私だけではない。天馬ら全員が同じ方向を見つめていた。物陰から見守る間、私たちの空気は和やかになっていく。しかし、フェイやワンダバ、優一さんのみが顔を硬らせていた。この先起こることを知っているからだ。



「...そろそろかな」
「ああ」



京介はボールを求める。優一はパスをした。
兄の軽やかなボールの扱いに憧れるように、弟も同様のことをした。しかし、蹴ったボールは放物線を描いて宙を舞い、木の枝の間に挟まった。



「...!」



その場に戦慄が走った。
神童さんと信助は何が起こったのかわからないような様子だが、他のメンバーは表情を変える。



木の下で兄弟が困っていた。私はすぐに駆け出して助けたい気持ちになったが、必死にその思いを抑える。私がここで彼らを助けてしまえば、ここに来た意味がなくなる。そもそも、今までの改変された歴史こそ、優一が助かった歴史なのだから。


それに、優一を助けることは、ここにいる優一さんの覚悟を無下にすることと同義だ。



だから、何もできなかった。助けることは許されなかった。



しかし、現実で悲劇が起ころうとしている。それを黙って見過ごせというのか。そんなの、残酷すぎないか。一人の人間が下半身不随になる未来を待ち望めというのか。




「剣城...」


天馬が小さく呟く。それを聞き、我に返った。
そうだ。止めたいのは私だけではない。天馬も同じなんだ。きっと優一さんも、フェイも、ワンダバもそうだろう。



耐えろ。今は耐えるんだ。



京介が木を登り、サッカーボールがあるであろう位置に向かって小さな手を伸ばす。優一はその様子を下から不安そうに見つめていた。



今すぐに止めたい。助けたい。




それは耐えがたい現実であった。

59. 卑怯な正論→←57. 6年前の西公園



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (61 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
120人がお気に入り
設定タグ:イナGO , 原作沿い , イナイレ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ルナストーン(プロフ) - …っ!?(何が言いたいか:最初から照れさせる気だったんですかぁっ!?) (2020年10月12日 0時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - ルナストーンさん» 読者の方を照れさせるつもりで書いたので良かったですー!ハハ (2020年10月12日 0時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ぁ…因みになんですが…消しても大丈夫です。僕は…。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
ルナストーン(プロフ) - 充滞さん» ([甘い戯れ]の後のやつの最後に向けてなのです)こちらも見ていて何故だか恥ずかしくなります。 (2020年10月11日 23時) (レス) id: f44ffe4945 (このIDを非表示/違反報告)
充滞(プロフ) - 夜月さん» 見てみたいですね〜。いえいえ (2020年10月11日 22時) (レス) id: 48c4c5694c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:充滞 | 作成日時:2020年10月10日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。