JIYONG -2-

マンション -Jiyong- ページ28

電話をかける勇気もなく、
インターホンを鳴らす勇気もない。

けど身体が勝手に動き、
Aの家まで来てしまった。

部屋の明かりはついていない。
さっき日付が変わったところ。
もう寝てしまったのか…
それとも仕事か…友達といるのか…

車の中からずっと見ているエントランス。
時間も時間。

さっきから数人、人は見るものの、
Aはいない。

もうどれくらいこうしてるんだろ…
エントランスの近くに車を停めたままだから、
何か言われたり、怪しまれて通報なんかされたら困る。

どうしよっかな…

もうそろそろ帰るべきか？

そう考えながら、
外の空気が吸いたくて車外に出た。

日中も涼しくなったこの頃だけど、
夜は冷えるようになった。
部屋着のまま飛び出して来たから、
Tシャツ１枚じゃ寒すぎる。

もう一度ベランダ側に回り、
Aの部屋を見上げた。

やっぱり明かりはついてない。

溜め息をつき、
とりあえず車に戻ろうとした…その時。

1台の車がこっちに向かって来た。

ライトが眩しい。
顔がバレても困る。

足早に車に戻り、ドアに手をかけた瞬間…

あの眩しかったヘッドライトが消え、
明るく照らされたエントランスの真横に停まった車の中がハッキリと見えた。

運転席と助手席。
その２つを何度も交互に見た。

どう見たって、
何度見たって、
助手席に座っているのはAだった。

楽しそうに、テレビで見るAのように笑顔で何か話をしている。

隣にいる男は多分俺より年上で、
スーツを着ていて、
しっかりしたサラリーマンのようで。

知らない顔。

HITECではない。
見覚えはないから、会社関係ではなさそう。

誰だ…？


あ……


その時、男の手がAの頭に触れた。
笑顔で優しく頭を撫でる男。

そして、その男を見ながら嬉しそうに微笑んで、
また何か話しているA。

男の手がやっとAの頭から離れ、
後部座席から紙袋を取り、それをAに渡した。

それを見て、驚いた表情で満面の笑みを浮かべるA。


「送ってくれてありがとう！これもありがとう！次は土曜日に会いに行くね！」

車のドアが開き、降りたAが中にいる男にそう言って。

「仕事、頑張れよ。おやすみ」

聞こえる、タッピョンみたいな低い男らしい声。

笑顔でエントランスに入るA。

俺の存在に気づくこともなく…
そっか…そういうことか…
そっか…

乗り込んだ車。
忘れたい。
考えたくない。

もうどうでもよくて、
スマホを手に取った。

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