JIYONG -2-

グレープティー -Jiyong- ページ40

何も考えられなくて、
身体も動かなくて。

どれくらい立ち尽くしてたんだろう。

シーンと静かな部屋の中。
右を見れば乱れたベット。
正面を見れば閉められたドア。

引き寄せられるようにそっちに向かい、
ドアを開け廊下に出た。

左を向けば、
明かりのついてない真っ黒なリビング。

右を向けば、
薄暗い玄関。

そして…
壁に立て掛けるようにして置かれた紙袋。

目に入った瞬間、
それを持っていたAを思い出し、
途端に胸が苦しくなった。

近づいて紙袋を拾い上げ、
中を見ると…

貸した本ともう一つ。
小さな箱が入っていた。

紫色の箱には、葡萄の絵が書かれていた。

グレープティー
ティーパック

そして箱の裏についていた付箋。

『本 ありがとうございました。
秋の新作のグレープティーです。
これはティーパックなので、
茶葉よりも簡単に紅茶を飲めると思います。
良かったら飲んで下さいね。』


胸が痛い。
痛くて、苦しくて、死にそう。



……………
今日が何月で、何日で、
月が変わったとか、
そんな感覚がないまま時間が過ぎていった。

きっと俺はあの日…
Aと最後に会った日から、
自分自身は進んでないから。

あの日のまま。
俺だけは。

けど、変わったことがある。
毎朝起きて、お湯を沸かし、
タンブラーにティーパックを引っ掛けお湯を注ぐ。

ふわっと香るグレープの香り。
その香りを嗅ぐと、泣きそうになり、
胸が締め付けられるのも毎日のこと。

なくなる前にマネージャーに頼み、
買ってきてもらう。

もう何度お願いしただろ。

それを持って仕事に行き、
毎日それの繰り返し。

急にタンブラーなんか持ち出したから、
最初、メンバーは不思議そうで。

『お母さんからの健康茶なんですか？』
と聞いてきたテソン。

お母さんでもないし、健康茶でもないけど、
まあそんな所。

多分、今のこの精神を平行に保っていられるのは、
確実にこれのお陰だから。


『いや。この香り…もしかして…特定の彼女出来たんですか！？その彼女のオススメの飲み物とか？』
と聞いてきたスンリ。

開けていたタンブラーを閉めて、
スンリの方を睨んだ。

特定の彼女…ではない。
けど俺にとってAは、
いわゆる…そんな存在…だと思う。

いわゆる…一番…好きな子。
一番…大切な子。


あれ？


彼女のオススメの飲み物。
それは当たってる。

だってもし…
これを他の人にオススメされても…

俺はきっと…興味を持たないと思うから。

苺 -Jiyong-→←さよなら -You-

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