伍陸 死神 ページ9
「死神の君と会うのは。随分と探したよ、何しろ他人の記憶を埋め込み異世界へと送ったわけだからね」
死神。それが私達の呼び名。
出会うこと自体が死を意味しているから。
そのうちに私は笑うことをやめた。それが何も意味しないことを知ったから。
「…彼岸様この人をどうする気ですか」
「Aの好きなようにすれば良いさ。後か先かどちらでも関係ないからね。
それとも死神のお前が好きになったかい?」
「…いえ」
「私達は感情のない種族だと思っていたが、人間の記憶を埋め込んだからか感情が芽生えたようだ。
人間らしくなった。面白い」
…面白い?
以前は怖くなかった。人の命を奪うのも、自分の命を奪われかけるのも。
だけどどうして今は怖いの?一度でも人として生きてしまったからなのか、彼岸様の言うように感情が芽生えてしまったからなのか。
「もうすぐだよ。この憎い程に青く美しい地球が私達のものになるのは。
それまで人間の言う思い出でも作るといい。
だが…覚えておきなさい。前にも言ったが
お前達は近づけば近づく程に壊れていくことを」
「獏、私の言うこと聞いてくれるよね?
この人から私の記憶を全て消してほしいの」
「それで本当によろしいのですか?」
「私はこの人の
そう言って笑った。
死神族は出会った人に必ず死をもたらす。
そこに感情なんてものはないし、あっちゃならない。
人間と出会うことで私に芽生えてしまった感情は私をそれではないものに仕立て上げてしまった。
……そして…この人の両親を殺めたのは他でもない死神族の私だから。
私の人生は贖罪。拭っても拭っても拭きれない罪で溢れている。その最大の罰が感情を持ってしまったことなのだと今は確信している。
腕の中の温もりを強く抱きしめた。溢れた涙は、私がこの先のシナリオを分かりきっているから。
「…俺の記憶を消して、夜逃げでもしようってんですかィ?要するに逃げるってわけか」
彼岸様の睡眠術をあっさり自分で解いてしまった彼に驚くと、彼の腕が私をきつく締め付けた。痛いくらいに力強く。
「ううん逃げるんじゃない。必ずまた出会えるから。…それが、最悪の形だったとしても
私が必ず守るから」
その日、私はこの江戸の人達から自分の存在の記憶を消した。
春村Aという偽りの姿を捨てて、死神として生きていく為に。大切な人を守る為に。
ただ一人例外を除いて。
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作者名:千の歌を歌う人 | 作成日時:2019年9月8日 1時