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朝、何時に集合とか話をし忘れたのでそこそこな時間に家を出る。
小さな公園の木陰のベンチに腰をかけ本を開いた。鞄は膝の上に置き抱え込む。
音楽機器にイヤホンを挿しお気に入りのロックを聞く。
爽やかに通り抜ける風が心地よい。
どこかフワフワした気持ちで本を読み続けた。
どのくらい経ったんだろう。
何となくふっと顔を上げれば離れたところに見覚えのあるヘアバンドの彼が居た。
「おーい!A!」
思わず挙げた手が途中で固まる。
さ、流石イタリアーノ...早速下の名前で呼んできた。
「ワリィ待たせちまったよな」
「ううん、平気。どこでやろっか」
「あー...その前に何か食わねぇ?実は寝坊しちゃってさ...何も食ってなくて」
「いいよ!どこかおすすめのお店があったら聞こうと思ってた所なの」
「ならいい所あるぜ!ほら行こ!」
ぐっと掴まれた手が引っ張られる。
昨日仗助と話した内容が脳を掠めた。
きっと大丈夫...大丈夫。
やっぱり冬はとても寒い。
はーと吐いた息が真っ白だ。
革靴のコツコツと鳴る音に聞き惚れていると不意に「冷てぇ」と隣から聞こえてきた。
「なあどのくらい待ってたんだよ、手めちゃくちゃ冷てぇよ。ごめん、誘っておきながら待たせて」
「本当に大丈夫だからさ。気にしないで?」
ていうかいつまで手握ってるの。
そこでああと納得した。
昨日の今日だから万が一の時のためにこうしてくれているのだろう。自惚れるな私。
海鳥が海を抱えて飛んでいく様子が見えた。
突き抜けんばかりの空の光が彼の目鼻立ちを更にくっきりと映し出していた。
「ぅわっ」
思わず見惚れてたら足元の段差に躓いてしまった。
巻き込むまいと咄嗟に手を振り払おうとしたが彼はそれを許さずもう片手を私の腹に回した。
「っぶね、怪我は?」
「だっ、大丈夫!ごめんなさい!」
かっと熱が顔に集まる。
は、恥ずかしいっ!馬鹿!私の!馬鹿!けつ毛燃えろ!
一方の彼はよかったァと無邪気に笑う。
釣られて口元が緩んだ。
空が落ちてきそうなこの日私は初めてイタリアで彼と並んで笑った。
根拠なんて無い。確証だって無い。
けど何故か彼とならと思う自分がいた。
着いたおすすめのお店はとても洒落ててドキドキしながら飲んだ初めてのエスプレッソはビックリするくらい苦かった。
けど何故か柑橘系の味もした気がした。
彼が隣にいたからだろうか。
私にはよく分からないけど
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ぱ - ほんとに...ナランチャ...いやほんとにいい話でしたほんんとにありがとうございます...!!!!! (2月20日 23時) (レス) @page26 id: d599ec02c4 (このIDを非表示/違反報告)
食人(プロフ) - こんなに泣くとは思わなかった…すごく、素晴らしい作品です (2022年7月26日 13時) (レス) @page47 id: e21618e8ed (このIDを非表示/違反報告)
れい - 顔がぐちゃぐちゃになりました...本当にいいお話で、すごかったです!(語彙力なくてすみません)このような作品を読ませて頂いてありがとうございます!この作品に出会えてよかったと本当に思います...二人が本当に幸せになれるように祈ります...(長文失礼しました) (2021年7月24日 0時) (レス) id: 231e6087c7 (このIDを非表示/違反報告)
青 - 号泣しました…。目擦りすぎて睫毛ぼろぼろ抜けました。私の持ち得る限りの語彙力を総動員しても、この素敵な作品の尊さを表現し尽くすことはできないかもしれません…。本当にこの作品と出会えて良かったです。全細胞がディモールトベネ!と喜んでます…… (2021年3月22日 4時) (レス) id: fc7ac22f29 (このIDを非表示/違反報告)
鈴鶴@メガネ=本体(プロフ) - イスカさん» ありがとうございます!しかも他の作品まで...!圧倒的感謝です!!これからも精進して参ります! (2019年9月27日 22時) (レス) id: 022f546ed4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:鈴鶴@メガネ=本体 | 作成日時:2019年6月30日 22時