69.ご常連様 ページ23
「お、いたいた松本さん」
店が近付いてくると、相葉さんは潤くんの姿を見つけて嬉しそうに言う。
「絶対ビックリするよ。俺とAちゃんが知り合いだなんて」
「うん、そうだね」
二人で潤くんの驚く姿を想像しながら、店の入り口までやって来た。店内は当然賑わっていて、スタッフの子たちも忙しそう。
「あぁ…なんだか申し訳ないなぁ」
「大丈夫だよ、Aちゃんいつも頑張ってるんだから。それに予約をしたのは俺だし気にする事ないよ。…まぁ、気持ちは分かるけどね(笑)」
"従業員あるあるだ"と笑ってくれた相葉さんとしばらく店内の様子を伺っていると、レジ前にいる潤くんと目があった。
「お、気付いたかな？」
「潤くーん」
控えめに手を振りながら店の中に入ると、潤くんは想像してた通りの驚いた顔を見せた。
「え？どういう事？」
「松本さん、ケーキ受け取りに来ました」
「いや、うん。相葉くんだよね…それはちゃんと用意してるよ。じゃなくて」
「相葉さんね、カズの同僚なの。だから私とも…」
「はっ？カズ？……ちょっと待て」
…？
一体なにが待てなのか。潤くんは慌てて私たち二人を店の外に追い出そうとした。
「えっ…潤くん？どうしたの？」
「い、一応な。一応」
「一応…？何それ意味分かんな…」
「ケーキ用意するから外で待ってろ。ほら相葉くんも！」
ぐいぐいと押されて、仕方なく店の外に出ようとしたその時。潤くんのこの行動の意味を知る事になる。
「………雅紀くん？」
店内からそっと声を掛けてきた一人の女性。
それは潤くんと仲の良いあのご常連様で、このあいだ私に「おすすめの紅茶を教えてほしい」と言ってくれた人だ。
紅茶を通じて仲良くなれると思ってた。そしてそれは"店員と客"という枠をも越えるかもしれないって。
だけど…
「ハル………ちゃん？」
相葉さんからその名前を聞いた瞬間、それは見事に崩れ落ちて。
「やっぱり雅紀くんだ！すごい偶然！」
「はは…うん。ホントすごい、偶然……だね」
二人の会話がどんどん遠くなる。
耳が無意識にシャットダウンしているみたい。
だけど、もう情報は頭に入ってしまった。
「松本さん、ケーキあとで取りに来ます！ハルちゃんごめん、また！」
今、目の前にいるこの女性が、
「Aちゃん行こう」
カズの………元カノだってこと。
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作者名：ミト
| 作成日時：2019年11月23日 15時
