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見渡せば、さっきまでいた、花鶏の二階のソファの前。
そこに、私が一人座り込んでいる。
窓を見れば、外はすっかり暗くなっていた。
さっきのは何だったのか。
夢であって欲しい。だって、あんな……。
居ても立っても居られなくて、立ち上がって階段を駆け下りる。行先も分からないまま花鶏のドアを手荒く開けば、目の前に蓮と真司が立っていた。
帰ってきたらしい。…須藤サンとの、戦いから…。
「A」
『れ、ん』
息が荒くなる。一筋、こめかみから汗が伝った。こんなに、寒いのに。
「シザースは死んだ」
『！』
「ッ？！オイ蓮！二人には言わないって…」
「優衣には言うなと言ったが、Aに言うなとは言ってない。コイツは終着点だ。隠したところで気付く」
アレは、夢じゃないのだと思い知る。精神世界、とか言うやつかもしれない。私の、精神の世界。ライダーが死んだ時だけ現れる、この世界とも、ミラーワールドとも違う世界。
須藤サンは、死んだんだ。
蓮と真司の口から、彼が今までやってきたこと、そして最期を聞かされた。
須藤サンはアンティークショップの店長である加賀と共に、悪どい商売をしていた。しかしある日、その報酬に関してトラブルになり、加賀を殺してしまう。
そこに現れた兄さんに、デッキを渡され、ライダーになった。
それだけじゃない、と二人は続ける。加賀の件のカモフラージュとモンスターの強化のために通行人を襲わせていた、真司や令子サンも殺そうとしていた、勘づいた他の刑事を契約モンスターに食わせた……。
そして、蓮と戦った。
蓮の攻撃がデッキに直撃し、粉々になり、契約が解除された。
結果、契約していたボルキャンサーに、頭から捕食された。
「アイツはそれだけの事をしていた。自業自得だ」
『…で、も』
吐いた息が震えている。目の前が滲む。
起こったことをようやく脳が理解して、感情の全てが流れ込んできた。
「だが、」
蓮が腕を伸ばして、私の頭を自分の胸に押し付ける。
「泣きたいなら泣け。俺は、お前の妹でも、後輩でもない」
妹だから、後輩だから。優衣や真司の前では泣き難いのを、蓮は理解してくれたらしい。
隣にいるから、真司の前ではあるのだけど、顔が見られないだけだいぶマシだ。
私は蓮のコートを握りしめて、彼の胸で泣いた。
悲しかったのか、悔しかったのか、辛かったのか。
ただ、溢れる感情の行先が見当たらなくて、ひたすら涙で洗い流した。
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作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年9月24日 18時
