36 ページ39
『須藤サン…？』
振り返れば、須藤サンが立っていた。さっきまで、誰もいなかったのに。
状況が理解出来ず黙っていれば、須藤サンが口を開く。
「成程。貴方の中に還るとは、こういうことですか」
須藤サンは納得するようにそう言って、興味深いと漏らした。
「確かに…何だか懐かしく感じますね。ライダーになった時、既に、ここに来るとこは決まっていたのでしょうか」
『まって、還るって、つまり、』
須藤サン、貴方は。
「死にましたよ、私は」
『＿＿＿＿＿ぁ、』
須藤サンはいつもの笑顔で言った。
足の力が抜けて、座り込む。ぱしゃん、と水の音がした。波紋が広がるけれど、膝が濡れる感覚はない。
「モンスターも、貴方の中に還ると言いましたが…今までのモンスター全てに、こんな手厚い歓迎を？」
『…いや、今までは、こんなこと…。多分、ライダー、だったから…』
「…つまり、私が初めて死んだライダーだったと。…複雑ですね。嫌なような嬉しいような」
『なん、何が、』
"嬉しい"という言葉に対しての疑問。言わなかったが、須藤サンは理解してくれたらしい。
座り込んだ私のまえに片膝をついて、言う。
「初めて死んだライダーということは、初めて貴方の中に還る人間ということでしょう」
それなら、
「貴方は、一生私を忘れない」
違いますか？と彼は言う。
『違う。違います。そんなのなくたって忘れない、なのに、』
「…そうですか」
須藤サンは、心底嬉しそうに笑った。
「Aさん」
『…』
「抱きしめても、構いませんか」
声が出ないから、答える代わりに手を伸ばす。
次の瞬間、私は彼に抱きしめられていた。
腕を彼の背中に回す。ジュワジュワと、須藤サンが粒子に変わって消えていく。
抱きしめても、それが止まることは無い。
『ぁ、あ』
「Aさん、」
『ッは、』
「愛しています」
耳元で、彼が笑う。
『す、どうさ、』
その瞬間、腕の中の温もりが消えた。
『ッあ、…え？』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 34人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：なちなちこ。 | 作成日時：2022年9月24日 18時
