【歌い手】君に幸福を、僕に愛を。 (ページ7)

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普通の住宅街の一軒家にしてはやけに豪華と言うのがこの家に入った感想だった。
白いフローリングは埃一つなくて、たまに置かれている花は枯れることを知らずに堂々と咲き誇っている。
どこを見ても手入れが整っていて、外見通り豪邸のようだった。
怒涛の如く通り過ぎたため、全く整理出来ずにいたが、どうやらここはゲームの世界らしい。
トリップ、とでも言うのだろうか。
説明書に書いてあった"何が起きても保証しない"と言った旨の文はこれを示していたのかと密かに納得する。

「この後どうする？夜遅いし寝る？」
「ん、そうしよっかな」

どうやら、私は高身長の彼をluzくんと呼んでいるらしく、従兄弟の関係性で敬語を使うと捨てられた子犬のような目で見られるため、タメ口で話すことになった。
数分前に会った人にタメ口はキツく、さすがに抵抗があったけど。

「……どこ行ってたん」

リビングに繋がる扉を開けた瞬間、家に入る時から繋いでいたluzくんの手が離れて、誰かに抱き締められる。
いつの間にか温まっていた手は、ひんやりとした空気に触れて、ほんの少し寂しく感じた。
それよりも、だ。
私を抱き締めたその人の声が耳元で響き、擽ったい。
luzくんみたいに甘ったるい声だった。
勝手に出かけたのが気に食わないのか甘い響きの中で不機嫌そうな雰囲気もあった。
後ろから抱き締められる感じで、首に回された手に自然と視線が映る。
白くて細くて女性らしい、でも角張ったれっきとした男性の手。
微かに見える袖も手の半分位を覆う形になっていて、声とは裏腹に可愛らしい人なのかと思った。その時は。

「……どこ行ってたんってば」

私が返事をしない事に痺れを切らしたのは首に回した手に力が強まる。
ぎゅ、とさっきよりも肌が首に触れて、擽ったさに思わず身を捩らせる。

「…………コンビニ、」

逃れるために、ふらっと出かけられそうな用事を口に出す。とはいえ、嘘なので自信はない。
答えたことに満足したのか、その人は私を解放してそのまま手を引いてソファーに座らせた。

「ほんまに……？ウソついてへん？」

最初に聞かれた言葉がそれとは。
ウソの塊みたいな発言だからついてない、とは言えないけどここでウソだと言えば確実にさっきみたいな目に合う。

「怒りすぎとちゃう？ Aが俺とコンビニ行ってたんはホンマやで？」

綿菓子みたいな甘い声が煽るように告げこの話は幕を閉じた。
向き合ったの見た目の美しさに口は閉じなかったけど。