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「っあ、収まった」
ぽつり、そう零してまだ乾いてもない地面へ一歩踏み出す。
水たまりを見かけて、昔に飛び越えるとかやったなぁって懐かしい気持ちを抱きながら近寄った。
「ぇ……」
水たまりには、人じゃない。
なにか__猫がいた。
緑色の目をした、ちっちゃくて毛並みがサラサラの、可愛らしい猫。
違う、違う。
自分じゃない。この猫が自分なわけない。
じゃあ、この水たまりに映ってるのはだれ?
お前は誰?俺は、誰?
「わかんねぇよ……」
わかんない。なにもかもが。
自分がだれなのかも、どうすればいいのかも。
虹が見えて。
キラキラと輝いてて、水たまりに映ってて、それがすごい幻想的で綺麗だった。
手で目元を拭って、駆け出す。
晴れ始めた空。
地平線に向かって、でも。どこかに向かって走り出した。
振り返ることは、もうない。
自分は猫。人じゃないって分かってたから。
人だって思ってたかっただけだから。
自分を無意識に縛り付けていた糸は解けて、誰かに知らないうちに押し付けられていた価値観は知らないふりをして。
鳴いても、薙いても、振り返らないから。
ふわふわと風に揺れてなびく木々も、どこかから漂う美味しそうなパンの匂いも、誰かが話す声も、苦しさから感じる苦味も。
新しい町は前よりもちょっとだけ冷たい。
でも、いいや。
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作者名:凪桜 | 作成日時:2019年1月14日 1時