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「ありがとうございます!………………ええと、」


そういえば名前を聞いていなかった。
名前なんていうんですか、と聞こうとした虎杖だったが、ちょっとした子供心がひょっこり顔を出した。


「………………きなこ先輩」

「へえッ?!」


またも肩をびくんと揺らし、虎杖を凝視する。
あだ名なんてつけられた事がなかったもんだから驚いてしまったのだ。大きな目をぱちぱちさせるAに、虎杖は申し訳なさそうに眉を下げる。


「あ、すんません。嫌でした?」

「え、あ、大丈夫よ。ただ急やったからちょっとだけびっくりして…………」

「なんか先輩、先輩っぽくないですね、いい意味で」

「?」

「親しみやすいっていうか、なんつーか。先輩ってより友達って感じするんすよね!」

「ともだち」

(………………あ)


その言葉に心底嬉しそうな笑顔は幼く無邪気で、虎杖はひゅっと息を飲んだ。


(この人、こんな風に笑うんだ)


何処か控えめで大人しそうな雰囲気があったが、その笑顔は底抜けに明るくて、まるで太陽みたいだった。虎杖もそれに釣られて笑う。


「あ、着いた」


暫く歩くと2年生の寮の入口までたどり着く。
街灯の光に照らされたAはビニール袋を握りしめた手と反対側の手をひらひらと振った。


「ほんとにありがとう」

「いえいえ、こちらこそありがとうございます!」

「じゃあまたね」

「はいっ、おやすみなさい、きなこ先輩」

「うふふ」


よっぽど『きなこ先輩』が気に入ったらしい。
最後にそう言って悪戯っぽく笑う虎杖にAも目を細めて笑い返せば、彼はこちらに背を向けて帰って行った。

虎杖と別れ、部屋に戻るAは早速わらび餅の封を開け、小さな串で柔らかな餅をつついていた。


「名前聞くん忘れてもーたけど…………ええ子やなあ」


ひとり部屋に戻りながら物思いにふけっていると、ふと気づく。


「あれ?あの子、1年生やんな?」


それは、決定的な違和感。


「………伏黒くんと野薔薇ちゃんだけちゃうの?」


彼らと同じ1年生なら、Aは既に会っているはず。
それなのに、Aが虎杖と会ったのはこれが初めて。

一体彼は何者なのか。
それを知ることになるのは、少し先のお話。









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作者名:まめこ。 | 作成日時:2021年2月12日 12時

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