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薄らと暗がりに包まれる中、花たちは水滴を散らしながら綺麗に咲いている。そんな様子が微笑ましくて、つい笑みを浮かべた。ふんわりと柔らかいその笑顔を見た棘は、驚いたように目を見開いて、そして「こんぶ」と呟いた。


「…………?」

「ツナマヨ」

「え?!…そ、そんなに悲しそうな顔してた?」

「しゃけ」


高専に来てからのAは悲しそうな顔…というより、今にも泣き出しそうな顔をしていた。まあ実際我慢できずに声を上げて泣いたけど。おどおどして縮こまってばかりのAの笑顔を見られた事が、棘にとっては嬉しいようだ。


(…………ってあれ、私なんで狗巻くんが何言ってるか分かるんやろ)


そこでふと生まれた疑問。まあフィーリングで何となく分かるのか、とその疑問に蓋をして、Aは深掘りしなかった。後になって『高専で唯一、会って1日以内に棘の言葉を理解したなかなか凄いやつ』なんて肩書きがつくのはまだ知らない訳だが。

ちょっとした質問を投げかけたり、花のことを教えて貰ったり。傍から見れば何を言っているのか分からない会話だろうが、Aと棘の間に生まれた不思議な糸は、言葉がなくとも2人の心を通じ合わせた。


「じゃあまた明日」

「しゃけ」


寮に入ると、お互い自分の部屋へと戻っていく。
1人になったAは、こうして同級生と話すのはいつぶりだろうと幸福感に耽っていた。長年過保護教育の下で育てられ、小学校でも中学校でも、その身分のせいで他の生徒とは何処か距離があった。
それでも対等に話すことができた、自分も普通の女子高生になれたんだと思うと嬉しくて、自然と口角も上を向いた。


「呪術師って悪い人ばっかりやないんやね」


ハナから人を救ける呪術師に“悪い人”などいないのだが、まあその辺は触れないでおこう。

初めは何を考えているか分からなくて怖かった棘は、思っていたより優しくて楽しかった。そのくりくりした目は何処か可愛らしさも兼ね揃えていて、話していると優しさやノリの良さが度々垣間見える。やはり人は見た目で判断してはいけないなと、ここに来て実感するのであった。









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作者名:まめこ。 | 作成日時:2021年3月4日 15時

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