生きたい彼女と死にたい彼。(２)

平凡 ページ18

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あの日記を呼んでやっぱり。と呟いた佐久間くんは

DVの事に薄々勘付いていた。


父親に俺らで言いに行くか？と言う宮舘さんの問いかけに、

阿部ちゃんは望まないだろうから良いと断って部屋を後にした。


佐久間くんはしっかり日記を握りしめていた。






カードと言うのは"臓器提供意思表示カード"。



阿部くんが最後に持っていた持ち物の中にあったらしいけれど、

何故か既に家にはなかった。






日記の最後の日に書かれたページには、

濡れて乾いたと見られる跡がいくつかあった。



誰も言及しなかったけれど、

阿部くんもひとりなら泣く事のできる人だったと思うと、

少しだけ安心できた。





途中の引き千切られている頁には一体何が書いてあったのか。

気になる気持ちもありつつ、

もう何処にもないのだろうから勘ぐるのはやめた。





後々更に思い出したけれど、

阿部くんは夢の中で佐久間くんに対しては
隠している"物"。

深澤さん宮舘さんには
隠している"事"。

と言葉を使い分けていた。



友達が何を隠しているのかしっかり把握していた。






父親もどきに関しては如何することもできないまま

月日が流れる。






阿部くんの49日が過ぎ、

御墓に入る時ですら仕事が忙しいからと

立ち会う事すらしなかった。

身内ではないけれど4人で、静かに手を合わせた。





宮舘さんは休日になると佐久間くんを店に呼び出しては、

試作品だ！と次々にパスタを目の前に並べた。

それを食べて感想を言って、出すのはアリかナシか判定する。


それを毎週繰り返すうちに今までの体型や顔色に戻っていった。



代わりに深澤さんが

コーヒー豆仕入れ量少なくしなきゃなんだよと、

愚痴をこぼしていた。




私は毎月の検査で病院に行き、

月命日には阿部くんの元へ検査の報告と線香を上げに行く。



毎月先客がいて、

綺麗なピンクの花と

その隙間に赤い薔薇が一つ、

そしてアイスコーヒーが置かれている。




瞬間接着剤でくっつけたような友情には

暫く苦戦はしていたけれど、

ある程度落ち着いてきている。




まだ激しい運動や無理な遠出は許可されていないから、

あの桜の木が私達の集う場所だけれど、

近くにあるベンチを見る度にあの日の事を思い出す。

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