あっけなく ページ46
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周りの物音がなにひとつ耳に届かなくて
受け取ったブーケも、落としてしまいそうなほど、身体に力が入らない。
全身が震える。
焦点すら、定まらない。
なんで
なんで、Aが
「……覚えてる？」
「……。」
「……玲於くん？」
Aは、2年前よりも痩せていた。
髪は伸びて、雰囲気は何も変わらないけど
でもどこか少し、大人になったみたいで
丸っこい目
小さい鼻と口
…ああほんとに、ほんとに、Aだ。
何も言葉が出てこない。
状況が理解できなくて、ただ、大きく動く心臓を抑えるのに必死。
「玲於控室戻るよ〜」
メンバーの声に、頷くのがやっとだった。
機材を片付け始めたスタッフさんたち
邪魔になるって分かってるのに、動けなかった。
そんな俺を見て、Aは口を開く。
「玲於くん、きて。」
Aの手が、俺の腕をそっと掴んで
スタジオの外へと引いて歩いた。
俺らしかいない廊下の隅で、向かい合ってもまた、何も話せないまま。
「……ブーケ、可愛いでしょう。わたしが選んだの。」
「……。」
「…実は、ずっと後ろから撮影見てたんだけど…気付かなかった？」
「……気付かなかった。」
「ふふ、…だよね、気付かないよね。」
Aが、笑った。
その顔見たとき、鼻の奥がつんって痛くなって
身体の奥の奥が、火傷しそうなくらい熱くなって
「……ほんとに、A…？」
「……うん。」
「……何やってんだよ、こんなとこで…なんで、ここにいんだよ…」
泣くのを堪えるのに精一杯な俺は
Aがポケットから取り出したものが何なのか、すぐには理解できなかった。
手渡される、それ。
Aは、あげる って呟いた。
「…え？」
「……あげる。…もう、わたしのって言えないよ。」
「……。」
「毎月、ありがとう。わたしが死なないように、お金、くれてたんだよね。」
「……。」
「…一円も使ってないよ。全部、玲於くんの。すごい額になってるの。」
Aの通帳
震える手で開くと、最後の欄には目を疑うほどの額が記帳されていた。
「…一円も使ってない…？」
「うん、…いつか返さなきゃって、ずっと思ってたよ。」
「…返すって…」
「……もう、いいよ。もう、振り込まなくていいよ。今日も振り込んでくれたけど…来月からはもう、いいから。」
Aは真っ直ぐ俺を見ていた。
…ああ、嘘だろ
これもダメなのか。
Aと一緒にいられなくなって
その上、生きる理由さえも。
俺の命綱は、あっけなく切れた。
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a - もう何回読んだか分かりません。当時GENEが大好きだった私も今では予定があえばライブに行く程度ですが、未だに何回もきなこさんの作品を読んでしまいます。こんなに大好きだと思える作品は他にありません。当時も今も変わらずいちばん大切な作品です。 (11月26日 9時) (
レス) @page50 id: fb27f2c91a (このIDを非表示/違反報告)
また会いたいです - きなこさんは今は何をされていますか？ (9月26日 19時) (レス) id: e10e58a731 (このIDを非表示/違反報告)
mchar(プロフ) - もう3回くらい読んでます。毎回泣いてしまうし、寝る間も惜しんで読んでしまいます。もう玲於のファンは卒業していますが、きなこさんが書く玲於が好きです。 (7月3日 8時) (レス) @page50 id: 895ee9ba7d (このIDを非表示/違反報告)
ナカム(プロフ) - 後半は特に心がギュッと掴まれて苦しくなっちゃうくらい感情移入してしまいました、、素敵な作品をありがとうございます！！2人の会話のテンポ感と雰囲気がすごく好きでした！！！ (7月3日 2時) (レス) id: a627fc4932 (このIDを非表示/違反報告)
まるこめちーは(プロフ) - やっぱ玲於……カッコイイーーー！！！！！と思いました！笑 長々と失礼いたしました。 (2023年1月27日 19時) (レス) id: 58d12bf03b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：きなこ
| 作成日時：2019年12月1日 22時
