240メートルの誤算5【佐野玲於】

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1週間が経った。
白くなる息を吐きながら、朝、マンションを出て最寄りの銀行に立ち寄る。
ATMのコーナーにできていた2、3人の列
大人しく待って、数分後ようやく足を進めた。

いつもと同じ番号
いつもと同じ金額
ふと日付を見て思う。
ああ今日は、クリスマスか。

クリスマスの音楽特番、今年のは収録だから、もう撮り終えてる。
朝からずっとドラマの撮影
移動時間に雑誌のインタビュー
それが終わったら、夜からCM撮影。
全然クリスマスらしくないなって、ちょっと笑えた。


マネージャーと移動車に乗り込み、山梨の現場まで2時間近くかけて移動する。
途中台本を何度も読み込んだ。
その甲斐あってか、撮影は予定より1時間も早く終了。
次のカットからは都内で撮影だから、今よりだいぶ負担は軽くなる。


「玲於さん今日クリスマスですよ。僕休みたかったなあ。」
「…お前彼女いたっけ？」
「いるんすよ、実は。」
「マジで？生意気だな。」
「なんすかそれ。笑」


年下のマネージャー
もうすっかり慣れたみたいで、文句ばっか言うとこはそのままだけど、わりとテキパキ動けるようになった。


「彼女、大学生でー。」
「えー。」
「だから今日とか休みなんすよ。なのに、今日に限って夜からCM撮影だし…たぶんテッペン超えますよね。」
「超えるだろうね。」
「あ〜やだな〜帰りたいな〜」
「ま、彼女も他の男と楽しくやってるからさ、そんな気にしないで」
「いや何言ってるんすか！」


冗談冗談、って笑う俺に
マネージャーは、冗談でもやめてください！って怒ってる。
大学生か、彼女。
可愛くて仕方ないんだろうな。


「じゃあ早く終われるように頑張ってやるよ。」
「まじでありがとうございます！」
「お前もちゃんと働けよ。」
「もちろんっす。」


そんな会話の後、一旦事務所に戻り
雑誌記者を乗せてスタジオに向かう。
メンバーはもう着いてるらしい。
インタビューを受けながら、外の景色を眺めていた。


「ドラマの内容に掛けてお聞きしたいのですが、」
「はい。」
「もし過去に戻れるなら、佐野さんは何年前に戻りますか？」
「……6年前っすね。」
「6年前というと…20歳の頃ですか。」
「…その頃が、多分いちばん頑張ってましたね。知名度も今より全然なくて、そういう中で、頑張る理由みたいなのを手に入れて、必死でやってました。」
「なるほど。」
「……楽しかったなあ。」


そんなこと呟いた俺を
記者のお姉さんは 不思議そうな顔で見てた。


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