240メートルの誤算5【佐野玲於】

あれ以来 ページ43

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「玲於さん、新しい現場決まりましたよ。」


控室でゲームしてたら、マネージャーがそう声をかけてきた。
ゲーム置いて、顔を上げる。


「この前言ってたやつ？」
「そうっす。玲於さんが言う通り引き受けましたけど…体力的にマズくないっすかね。僕未だに反対してますよ。」
「全然平気。」


グループとしての活動はもちろんだけど
最近は、俳優としての仕事が前と比べ物にならないくらい増えた。
どんな小さな規模のものでも、全部全力で臨んでたから
それが認められたのかもしれない。

カツカツのスケジュール
ドラマの話をもらったけど
ツアー中だし他にも撮影してるのあるし、今回は断った方がいいってマネージャーには言われてた。
でも、どう考えても頑張りたかったから。


「またドラマ？」
「うん。」
「すごいな〜、超多忙。寝れてんの？」
「まあまあ。」
「貯金エグいんちゃう？」
「たぶん僕の倍くらいありますね！」


みんなが口々にそう言って笑った。
当たり前じゃん、なんて言ってみるけど
実際、全然無いよ。
でも苦じゃない。


「…もっと仕事来ねえかなあ。」
「いやもう十分でしょ！」
「全く。」
「ストイック〜」
「でもほら、CM決まったじゃん。あれデカいよね。」
「あれはまじで嬉しかった。多分今後も続けて起用してもらえる。」


来週撮影がある、有名なスマホアプリのCM。
あれはほんとに決まったとき嬉しかった。
グループ全員での撮影も久々だし、気合入る。


「まあさ、仕事も大事だけど、たまにはゆっくりしてもいいんじゃないの。」


亜嵐くんのそんな言葉
…たまには、ゆっくり


「…うん、わかった。」
「ツアーまだ続くからさ、息抜きしてね。」


俺には、ゆっくりも、息抜きも、する資格ない。
そんなことしてられない。
Aのぶんまで働かないといけないから

バカだよなあと、我ながら思う。
今あいつが何してるかなんて分からないのに。
もう結婚してるかもしんないのに。


俺は、何も変われないままだよ。
自由の女神のオブジェ
見るたびに、あの日のことを思い出す。
多分一生忘れることなんてできない。
あれ以来誰とも付き合ってないし、Aじゃない誰かと手を繋ぐことも、今後、一生無いと確信してる。


Aは違うといいな
俺のことなんて忘れて、普通に生きてたら。
俺が毎月振り込んでる金も 自由に使ってさ。

そうあってほしいと、強く思った。
もう2年前の俺とは違う。
いま願うのは、Aの幸せだけだった。


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