240メートルの誤算5【佐野玲於】

毎月 ページ42

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NYから帰った翌日には
俺の家にあったAの荷物、段ボールに詰めて アパートに郵送した。
自由の女神もちゃんと、傷つかないようにして。


全部送り終えたあと、気づく。
NYに持っていってたリュックの中、Aが買った日記帳が入ってたんだ。
コートのポケットには、東京帰って渡そうと思ってた お揃いのリングも。

どうしたらいいか分からず
ずっと合鍵を付けていたキーケースの一番端に、かわりにリングを引っ掛けた。
一生渡すことはできないけど、それでも、捨てられなかった。

日記帳はどうしようかと思いながら、1ページ目を開く。
昨日の日付と、"別れた"
たった3文字を書いただけで、どっと汗が出た。
勝手に使っても、もう会わないから怒られない。
こんなにも怒ってほしいと思ったのは、初めてだった。


この1ヶ月間ずっと、Aがここにいたから
部屋が広く感じて、洗濯物も溜まって、
もう自分には何もないって感じて、虚無感に塗れて死にそうだった。

それでも、生きていられるのは




仕事の前に立ち寄ったATM
前から登録してたAの口座に、振り込みをする。
1ヶ月分ずつ
不自由なく暮らせて、美味いもん食えるくらいの額。

あそこまでAをボロボロにしたのは、間違いなく俺だから
最悪、働かなくても生きていけるように。
絶対死なないように。
普通の女のコとして、生きられるように。


罪滅ぼしだなんて思ってない。
ただ、こうしなきゃ気が済まなかった。

もちろん毎月その額を振り込むのは
いくら芸能人って言っても、簡単なことじゃなくて
俺はこれを一生続ける気でいるから
そうなると、自分自身の将来の貯蓄とか、色々考えることは山ほど。

それでも、俺は毎月この額を振り込んでいくことを、生きがいにしてた。
このために
Aにお金を渡すことを理由に、仕事してた。
それ以外なにも考えてない。

新しい仕事が決まったら、その月は5万多く振り込んだりした。
撮影がクランクアップした月とか、Aの誕生月とかも。


俺は、Aのために生きてる。
Aのことを思えば、キツい仕事もトレーニングも、全然苦じゃない。
4年前から、ずっと。









そうして生きて、2年が経った。

あれから一度もAには会ってない。
今どこで何をしているのかも、何も知らない。
俺はまだ、一生塞がらない穴を抱えながら
それに気付かないふりして笑ってる。


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