240メートルの誤算5【佐野玲於】

最後 ページ41

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自由の女神ミュージアムも
島からの絶景も
何も見ずに、俺たちは
1ミリでも近くにひっついて、ずっと、ひとつでいられるように。

周りの視線なんてどうでも良かった。
もう俺ってバレてもいいやって思ってた。
Aとこうしていられるのは、あとたった数時間しかないんだから。


リバティ島を出て、夕方までの予定を全部無しにして 空港に向かった。
ターミナルの端っこのベンチで、ずっとひっついて座ってた。

Aは泣き疲れたみたいで
さっきから黙ったまま、全体重俺に預けて目を瞑ってる。
顔覗き込んだら、まつ毛が濡れてた。
それすら愛おしかった。
離れたくないなって、また思ってしまって
そのたびに、自由の女神を思い出す。

Aをこんなところに閉じ込めてちゃいけない。
俺らはもう、子どもじゃない。


キスだって何度もした。
もうこれが最後だって思うと、全然足りなくて
途中涙の味がしたけど、俺のなのかAのなのか、どっちかなんて分からなかった。


Aがトイレに立ったとき、Aの財布に、今ある分全部の現金をこっそり入れた。
それから、アパートの合鍵も。
キーケースから外すとき、思わず泣きそうだった。


そうしているうちに、もう時間が迫って
また泣き出したAの手を引いて、チェックインや保安検査を済ませる。

彼女どうして泣いてるの？って
お節介に何度も聞かれて、そのたびに答えた。
「リバティ島に忘れ物しちゃってさ。」


行きと同じ、離れたシート。
エコノミーにしときゃよかった。
隣のシートにしときゃよかった。
後悔することは山ほどある。
ほんとに、山ほど。



「…玲於くん、」
「…ん？」
「これ…これって、機内に持ち込める？」
「あー…うん、いいよ。大丈夫。スマホ持ってる？忘れてない？」
「うん、持ってるよ。」


そんな何気ないやりとりが、俺たちの最後の会話になった。

機内では一度も後ろを振り向かなかった。
このまま一生、東京に着かなかったらいいのに。
何度思ったかな
着陸態勢に入りますってアナウンスで、走馬灯みたいにAとの思い出が頭に流れた。
思わず溢れた涙が、マスクに染み込んでいく。



ひとりで空港を出て、ひとりでタクシーに乗り込んだ。
周りの景色が全部無機質に見える。
マンションに着いて、倒れ込んだソファー
視線の先にあるふたつの自由の女神が、じっと俺を見つめてた。

この穴はもう、一生埋まらない。
…Aはちゃんと、家に帰れただろうか。

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