240メートルの誤算5【佐野玲於】

戻れない ページ1

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通話を終えて、立ち上がりリビングを出た。
廊下に行くと、玄関で靴を履いてる さくらちゃんの後ろ姿が見えて


「…今日会ってくる。」
「…ね、わたしの言った通りだったでしょう。Aちゃんも、玲於くんが好きだよ。」
「……なんでハッキリそう言えんの？」
「だってわかるよ。玲於くんとAちゃん、してることおんなじだから。」


じゃあ帰るね、って、玄関の鍵をあけて
ひらひらと手を振る。


「…また連絡する。」
「うん。Aちゃんに会ったらたくさんハグしてあげてね！そのために香水我慢したんだからね。」
「わかったわかった。」
「またね。」


パタンと閉まったドアに、ひとり立ち尽くす。

…Aと、また一緒にいられるのか。
4ヶ月前、あんな形で別れた俺たちが
また？
Aはこの期間もずっと、俺を好きでいてくれたって

悠太でも、吉川くんでも、古本屋の大学生でも、スーパーのあの男でもなく
俺を、ずっと。
それなのに


また負のループに入りそうになって、慌てて頬を叩く。
さくらちゃんも言ってくれただろ
俺がさくらちゃんを頼ったのは、それくらい俺が弱くなったのは、Aを好きすぎたからなんだって。
今はもう、その言葉にすがりついて行くしかないだろ。


どれだけ後悔しても、もう戻れないんだから。
それより先のことを考えないと。

今度こそ、絶対に間違えない。
何があってもAを手離さないように
ほら、今度からはさ、さくらちゃんが友だちとして後ろについててくれるんだから
無敵だろ
さくらちゃんのアドバイスって、結構的を得てるし。



なんて、馬鹿みたいに能天気な俺は
この最低な状況を楽観的に捉えすぎてて
本質が見えていなかった。

俺とAが、根本的に違うんだって
価値観も望むものも、何もかも、違うんだってこと
見えてなかった。
ただ一緒にいたいって気持ちが先走って
過程を全部 すっ飛ばしてた。

俺が大事なのは結果で
Aが大事なのは過程。
ほらもう、全然違うんだよ


でもそれに気付けない俺たちは
勝手にふたりの世界に入って、勝手に盛り上がって
Aのアパートまでの道をぼんやり歩きながら、今までのこと、思い出したりなんかして。

笑っちゃうよね
出会ってすぐの頃と同じじゃん。
むしろ、もっと悪くなってるよ
俺の連絡先には、さくらちゃんっていう女の子がひとり、加わった。

その存在を今日までに完全に消せなかった俺の放漫が、俺たちをもっと最悪な未来に導いて行く。


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