240メートルの誤算4【佐野玲於】

度胸 ページ36

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そのあと悠太は何も考えてない顔で
A元気にしてっかな、って呟いた。
…知らねえよ
俺の方が知りたいわ。


「事務だよね？旅行代理店だっけ。」
「…辞めたよ。」
「マジ！？」
「最近だけど。めでたくフリーターデビュー。」
「え、フリーター？どこ？」
「…スーパーのおばさん…」
「えぇうける！冷やかしに行こうぜ！」
「行かねえよバカ。」


めちゃくちゃ知ったような口をきいた。
俺だってこの前の電話でちょっと聞いただけなのに。
やっぱこいつの前ではどうしても、強がっていたい。


「でもいいんじゃね？よく分かんねえけど、あいつ事務より接客のほうが向いてるし。」
「…そう？」
「うん。可愛がられるタイプじゃん。」
「……。」
「適職！」


はっきりとそう言い切った悠太。
…俺は、全然向いてないって思ったけどな。


「…でも、Aってすげえテンパるタイプってか…人前とか絶対苦手じゃん。」
「まあテンパるのはAの基本動作のひとつでしょ！人前苦手かは分かんねえけど。」
「……ヘタレだし。」
「ヘタレ？笑 どこがだよ！確かに気弱いとこは多少あるけど、でも度胸あるじゃん、あいつ。」
「……。」
「度胸無かったら4年前ここでお前のこと待ってないよ。笑」


悠太に言われて、はっとした。
そうだよあいつは
4年前ここで、俺が来るのを待ってた。
連絡も絶やさないように
会いにきてって、あの言葉がなければ、俺たちは他人のままだったかもしれない。

俺、Aは弱虫で寂しがりやで
俺がいなきゃなんもできないって、そう思ってたけど
ほんとは俺なんかより何倍も
何倍も、


「今度ふたりで来てよ。店貸し切りにしとくから！」
「…絶対来ない。」
「なんでだよ！笑」
「俺がここに来たことバラしたらほんとにシバくからね、マジで。」
「いや玲於に言われてから俺連絡取ってねえし！」
「一生取んなよ。」
「怖すぎでしょ！」


外に出て、マスクつけてぼおっと歩いた。


Aから度胸を奪ったのは、俺なのかもしれない。
過保護にしすぎた？
俺はAを守ろうと必死だったけど
それが仇になって、それが原因で、俺たちはここまで拗れてしまったのか。


この前Aと電話したとき
合鍵返すってちゃんと言えてたら。
今頃俺は、何のしがらみも無く、さくらちゃんの隣にいられた？

もう今後一切、一生、Aのこと思い出さずに？



「……無理に決まってんだろ。」



思わず呟いたそんな一言は、街の騒音に飲まれて消えた。


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