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財布 ページ39

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「じゃあ、帰るね。」

風呂から出てすぐ、Aがそう言った。
拍子抜けする。

「え?風呂入んないの?」
「うん、家帰ってからにする。着替えないし。」

そっか、そうだけど
荷物まとめて立ち上がって、あっさりしてんな、ほんと。

…でも、このまま帰していいのか?
結局こいつが誰のこと考えてるかって
わからないまま。
また振り出しじゃん。
別れるか別れないかギリギリのライン彷徨って


「…待って、送ってくから。」

マスクつけながらそう言った。
え?って目丸くさせてるAをうまく誤魔化してから、持ってた鞄を手に取り、先に玄関に向かう。
スニーカーを取り出してるとき、鞄の中に財布入ってんのが見えた。

ダメだろ、って
分かってはいたけど、たぶんもう俺、おかしくなってて

Aがまだ来ないのを確認して
財布を抜き取った。
でも最低限困らないようにって、クレカだけ内ポケットに放り込む。
すぐそばの衣装部屋に財布隠して、なんでもない顔で、Aが来るのを待ってた。

「おせえ。」
「ごめん、もう出れる。」
「外で大声出さないでよ。」
「わかってるよ。」

ずるいなあ、俺って。
財布忘れてるよって連絡したら、きっと明日取りに来るはず。
ここまでしてでも会いたいし、浮気相手に会わせたくない。


エレベーターに乗って、一階に降りた。
エントランスを出ると、冷たい風が頬を掠める。
Aのアパートには歩いていくこともあるから、もう慣れた道のり。
でもひとりじゃなかった。
となりにAがいる。

こうやってふたりで歩くのって、いつぶりだろ。
…ああたぶんあの時だ。
夏の、あの日
ふたりでアイスを
そんなことを思い出してたとき、Aが聞いてくる。

「覚えてる?最後、こうやって 歩いたの。」
「…覚えてる。めっちゃ暑い日だった。」

それから、人のいない裏道をゆっくり歩きながら
その日のことを話した。
エアコンが壊れてたんだよ。
Aは確か、俺が勝手にアイス食べたことに怒ってて
俺はひっつきたくてたまんなかったのに
それ我慢して、ふたりでコンビニ行ったんだ。
夜中だったな。
暑くて死にそうだったけど、そんなのどうでもよくなるくらい、好きだった。

俺がそんな話をしてたら、Aはついに黙ってしまって
でもその横顔は、何かを言いたそうに俯いてた。
…何考えてる?
俺が思い出に浸ってる間にも
お前は一体、誰のことを考えてるんだよ。


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mugi(プロフ) - 自分に重なることが多すぎて、感情移入どころではなかったです。素敵な作品いつも有難うございます。 (2019年11月18日 10時) (レス) id: 4db51b5e5d (このIDを非表示/違反報告)
ゆいあ - きなこさんの作品大好きです! (2019年11月3日 18時) (レス) id: a624d1b453 (このIDを非表示/違反報告)
_myprince8(プロフ) - きなこさんの作品全て好きです。完結まで結びますように!っ (2019年11月3日 10時) (レス) id: bca9b2866b (このIDを非表示/違反報告)
ゆうか(プロフ) - 私最近の玲於くんの大人っぷりに寂しいって感じてしまい玲於くん見るの少し離れてたんです。だからきなこさんの思ってること同じで嬉しくなりました。今はちょこちょこ玲於くんを応援してるつもりです。笑1日の終わりに読むきなこさんの作品いつも楽しみです! (2019年11月3日 1時) (レス) id: f500b029ae (このIDを非表示/違反報告)
も。(プロフ) - きなこさんの作品の中で一番好きです。人間味があって執着する玲於ちゃんや空回りながらも同じ思いの主人公ちゃん、すれ違いがもどかしいけど読み応えがあって本当に好きです。完結まで頑張ってください! (2019年11月2日 9時) (レス) id: db66c21382 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きなこ | 作成日時:2019年10月10日 22時

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