240メートルの誤算3【佐野玲於】

惨敗 ページ26

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「……絶対無理？」
「うん…急に言われても。」

散々渋った結果
見事、惨敗。
いやわかってる。完全に俺が悪い。
それは確かにそうなんだけど
3年前のAなら…って、考えちゃうよ。嫌でも。

「……まあ、うん。いってらっしゃい、楽しんで。」
「…はいはい。」
「お土産待ってるね、自由の女神。」
「それ毎回言うけどなんなの、自由の女神持って帰って来いって言ってんの？きも。」

付き合い始めた時からずっと言ってる。
俺が海外行くたびに。
こいつちょっと頭おかしいもん
自由の女神、LAにあるって思ってんのかな。

「自由の女神……生で見たことないから、どれくらい大きいか分かんないもん。」
「……いやいや、わかるでしょ大体。」
「……東京タワーくらい？」
「…東京タワーよりデカいんじゃね？」

自由の女神を見たのは、初めてNY行った時が最初で最後。
あんまり覚えてなくて、適当に返事した。


ちらって見たA、断ったくせに眉毛ハの字にしてる。
…なんだよその顔。
もっかい頼み込んだら、もしかしてオッケーしてくれる？仕事休んで来てくれる？

でもそのあと
仕事行くって先に家を出たA
そのとき、俺に隠すようにこっそり、あの折り畳み傘を鞄に入れたから。

…ああなんか、もういいや。
行きたくないよな、そりゃ。




「え！？断られたの！？」

その日の夜中。
事務所で合わせを終え、シャワールームに向かいながら、メンさんにLA一緒に行って欲しいって頼んだ。
デリカシーなさすぎる最年長は、大声でそう言いながら、顔はめちゃくちゃ笑ってるし。

「マジでうぜえ…」
「いや、え？断られるとかある？笑 付き合ってんだよね？笑」
「だから…言ってんじゃん。付き合ってるけど、彼女は俺のこと好きじゃないって。」
「その話マジだったの？」
「…嘘でこんな悲しいこと言う？」

それにさ、って、続ける。
メンさんは、携帯片手にうんうんって頷いた。

「…なんか、男物の折り畳み傘持ってた。」
「…え、誰の？」
「知らねえよ。」
「聞けばよかったじゃん。」
「聞けるわけないでしょ。マジでさ、トラウマなんだって。」
「何が？」
「…吉川くん…」

誰？って笑うメンディーにもういいよって呟いて
ひとりシャワーを浴びた。
背中を鏡に映したら、薄っすらだけど赤く、引っ掻いたみたいな、爪の跡がついてて。

…Aだ、コレ。昨日の夜の。
よくあるんだよ。
この跡見るのちょっと好きなんだ、なんて言ったら
またバカって怒るかな。


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