240メートルの誤算【佐野玲於】

後ろ姿 ページ31

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その日の帰り道
スーパーの重いレジ袋を手に、ぼおっと歩いてた。
晩御飯どうしようかな。
どうせ玲於くんはお友達と食べてくるだろうし、適当でいっか。
野菜が安かったからたくさん買っちゃった。
野菜炒めでもしようっと。

…なんて考えているけど
気を抜くとすぐため息が出る。
今日は散々な一日だったから。

玲於くんとの電話を終えた後、ちょっとは元気になったけど
そのあとお客さんが立て続けに来たことで慌ただしくなり、仕事もあまり捗らなかった。
先輩は、大丈夫だよっていつも言ってくれるけど、そんなの本心なわけないし。
タイムカードを押した後に残ろうと思っても
いいから帰りなって言われてしまう。
わたしがいないほうがいいのかな、なんてまたネガティブになって、結局帰っちゃうけど。

でも、雨が止んでてよかった。
傘、持ってきてなかったから。
とはいえ今にもまた降り出しそうな曇り空
少し早歩きで、アパートへの道を急いだ。
その途中

不意に立ち止まる、あの古本屋の前
…18時40分かあ
いつも閉店間際に行くからわかんないけど
浅井さん、いるのかな。
何時からバイトしてるんだろう
今日は玲於くんが来るから夜は行けないし
…漫画、買って帰っちゃおうかな。

べつに、浅井さんに会いに来てるわけじゃない。
漫画が欲しいから
桃色の恋、今また良いところで終わってるもん。

なんでか緊張しながらお店に入る。
いないかもって思いながらレジを覗いたけど
キラキラした笑顔の浅井さん、ちゃんといて。
2人並んでるレジ
お釣りを渡すために顔を上げた彼は、通路を歩いてるわたしに気付いて
あ、って 顔をした。

接客中だから話せないけど
アイコンタクト、ていうか、目で会話。

今日は早いですね
仕事帰りに来たの
あとでそっち行きます
うん

たぶん、こんな感じ。


それから暫く、桃色の恋14巻を手にしたまま
少女漫画のコーナーをぼおっと見てた。
そろそろレジ終わったかなって思ってたら
ちょうど、浅井さん 小走りでこっちに来てくれて

「Aさん、」
「…レジ大丈夫？」
「はい、ちょっとなら。」
「そっか。」
「仕事帰りっすか。」
「うん、そう。外寒いよ。」
「あ、雨は？」
「今は止んでる。」
「そっか…せめて雪がいいっすよね。」
「ふふ、確かに。」
「あっ、やば、レジ行ってきます。ちょっと待ってて！」

わたしもレジ行くよって言ったけど
すぐだから！って。
その後ろ姿がかわいくて、ちょっと笑った。


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