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土方side
「溜め込み過ぎんなよ」
そう言って、俺は部屋から出た。
めんどくさい訳では無かった。
ただ、そこに俺は居るべきじゃないとそう思っただけだった。厳密に言えば、そう言い聞かせた。
本当は居てやりたかった。
抱き締めて慰める事だって出来た。
でも俺は分かった。
泣いたAはきっと、俺がどう思うかが心配で目を開けなかった。
あいつにも1人で考える時間は必要だと思った。
木でできた階段をギシギシと音を立てながら上がると、廊下まで聞こえるガヤガヤした部屋に入った。
「静かにしねぇか、うるせぇぞ」
「トシも飲もうぜ!!」
「飲まねぇ、早く寝ろ酔っ払い」
「そんなに言うんならしょうがねぇ...」
布団に潜り込んだ近藤さん達を確認し、俺はベランダに出た。
「なんだ、雨降ってんのかよ」
窓を閉め、部屋に戻り椅子に座ると、頭に過ぎったのはAの顔だ。
今日の事もあり、恐らく精神的にもダメージがあったはずだ。
跡が付けられているのももちろん気づいてる。
だが、そこには触れなかった。
と言うより、触れられなかった。
*
「おはよう」
「あぁ、おはよう」
勿論翌日、Aの目は腫れていた。
Aの事件があり、Aは先に帰ることになった。皆で帰る予定だったが、楽しんで欲しいと言うからAだけ帰ることになった。
「おい、一人で帰らせんのか?」
「それもそうだな...トシ、行ってやれ」
「そうくると思ったぜ...」
自惚れている訳では無い。
Aとはよく一緒にいるし、...
とにかく、1番仲がいいのは俺だ。
俺は勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
すると近藤さんは首を傾げた。
「帰るぞ」
「うん。」
頼むぞー!!と大声を出し近藤さんの見送られて出発した。
昨日の夜からAの元気が無かった。
それもそのはずだ。
トラウマにしかならねぇだろう。
俺は下を向いたままのAにはなしかけた。
「A...?」
「あっ、うん、どうしたの?」
「昨日は...すまねぇな」
「...いいの、私こそごめんね」
俺はとっくに葉が枯れてしまっている木を眺めて、静かな風を受けた。
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作者名:唐辛子の民 | 作成日時:2018年4月8日 19時