31.「頼む、見逃してくれないか」 ページ32
「頼む、見逃してくれないか」
懇願するカラ松さんの声は、かすかに震えている。
「クソ松……いやカラ松兄さん。おれは確かに、この女を連れ戻すようおそ松兄さんに命令された。でも正直いってもう飽きたんだ」
「飽きた?」
「今までに数え切れないほどの人間の血を吸って、これといった目的もなく何百年も生きてきた。ただひたすらに無駄な時間を過ごしてきた」
「何が言いたいんだ一松」
はぁ、と呆れるような溜め息が聞こえた。身構えるようにカラ松さんの手に力が入って、私の肩を強く掴む。
「おそ松兄さんがどうして邪魔をしてまでこの女にこだわるか知ってる? あの人、カラ松兄さんに嫉妬してるんだよ」
「おそ松もAのことが好きなのか?」
「違うバカ。これまで散々無意味な人生をおくってきたおれ達六つ子の中で、唯一お前だけが“生きる目的”を見つけたんだ。おそ松兄さんは多分それが羨ましかったんだと思う」
「おそ松が嫉妬なんてそんな……」
私から見る限りでも、おそ松さんは何事にも一切執着しないタイプだと思っていた。深くのめり込むよりも、浅く楽しむ、そんな人が嫉妬なんてするのだろうか?
「女を連れ戻せなんて命じたのはいいけど、きっと本当に連れ戻したところで何をする訳でもない。ただ幸せそうなカラ松兄さんが気にくわないだけ」
長男も堕ちたもんだ、と一松さんは自嘲気味に笑った。
「でももう、さっきも言ったとおり飽きたんだよね。命令だとか兄弟だとか……だから、ここから先は“ただの一松”として問う。──覚悟はできてんの、カラ松兄さん?」
ごくりとカラ松さんの喉仏が上下に揺れる。そして意を決したように「当たり前だ」と返せば、それを聞いた一松さんはニヒルな笑みを浮かべた。
「へぇ。ヘタレのくせにカッコなんかつけやがって。けど、お前が本気ならおれは止めない。今のあんたらも見なかったことにする」
……え?
見逃してくれるの?
「──じゃあな。哀れな吸血鬼」
ふわっ、と一松さんは羽を広げたかと思いきや、そのまま闇の中へと沈むように消えていってしまった。
冷え切った風だけが頬をかすめる。
「A」
「……?」
「Aを死なせない方法がひとつだけある」
そんな方法、本当にあるのだろうか?
「……俺に『あいしてる』と言ってくれ」
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暇人(プロフ) - 泣いた (2018年8月12日 0時) (レス) id: adf691658b (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - 結婚してほしい主人公とカラ松くん! (2018年4月9日 15時) (レス) id: 82bd22f655 (このIDを非表示/違反報告)
衿川紗倉 - わああ!最高です!面白かったです!!おまけの更新頑張ってくださいね! (2018年4月5日 11時) (レス) id: b3d6cd4611 (このIDを非表示/違反報告)
金平糖@ラビが大好きリーフパイ(プロフ) - わー!!完結おめでとうございます!!カラ松最高にかっこよかったです!おまけの更新、頑張ってくださいっ!! (2018年3月19日 6時) (レス) id: 942887e5ad (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - タナトさん» コメントありがとうございます!そこまで感情移入していただけるとは光栄です!これからも頑張ります! (2018年3月19日 1時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオト | 作成日時:2016年12月18日 1時