30.「──お前、本気なの」 ページ31
ぽふっ、と何かに受け止められる。
そのままコンクリートに打ち付けられて冥土に行ってしまうと思っていたのだが、どうやらここはまだ現実世界のようだ。
「カラ松兄さん、ナイスキャッチ!」
「……え?」
ゆっくりと視線を上げると、そこには相変わらず得意げな表情で笑うカラ松さんがいて。こんな状況なのに何笑ってるんだって、変な感情が一気に押し寄せて来た。
「ハニー、意識を失うんじゃないぞ。もう少しだから」
「は、い」
返事をするより早く、トド松さんとは比にならないスピードで夜空を飛ぶカラ松さん。朦朧とするまま彼の表情を見上げれば、今までに見たことのない真剣な眼差しをしていて、もう全てこの人に任せてしまおう、と私は微笑んだ。
それからどれだけの時間そうしていたのか、焦点が定まらない私には分からなかった。ただ、空の星が綺麗で、満月も綺麗で、どうせならこの美しい景色の元で死んでしまいたいと思った。もう限界だ。
振り絞ろうにも、声は出ない。
「ついたぞ、ハニー」
そのセリフの後、カラ松さんは私から身を離す。
匂いや薄っすらとした視界から理解できるのは、ここはどこかの花畑で、満月がはっきりと見えるその場所で私は降ろされたのだ。
無駄にオシャレにこだわるカラ松さんらしい。
最期をこんなに素敵なところで迎えられるなんて。
声はきっと出ていないけれど、それでもお礼を告げたくて唇を動かす。ありがとう、伝わってるといいな。
「なぁ」
「……?」
「吸血鬼の力が1番発揮されるのは、満月の夜なんだ」
カラ松さんの意図が読めない。
私の命の灯火はもう長くないというのに今更何をしようというのか。そう思っていると、突然カラ松さんの碧眼が横に向けられた。誰か、いる。
「──お前、本気なの」
この声は……一松さんだ。
どうしてこんなところに。
ああ、そうか。彼の能力は“影に溶け込む”のだ。もしかすると屋敷を逃げ出した時から、ずっと私の影に溶け込んでいたのかもしれない。
あるいはトド松さんに……いや、今そんなことを考えても意味はない。何もかもが、もうどうだって良かった。だってどうあがいても私が助かる見込みはゼロなのだから。
一松さんはじっと私達を見つめている。
「まだ彼女を連れ戻す気なのか、一松」
「……別に。おれはただ長男に命令されたから従っただけ」
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暇人(プロフ) - 泣いた (2018年8月12日 0時) (レス) id: adf691658b (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - 結婚してほしい主人公とカラ松くん! (2018年4月9日 15時) (レス) id: 82bd22f655 (このIDを非表示/違反報告)
衿川紗倉 - わああ!最高です!面白かったです!!おまけの更新頑張ってくださいね! (2018年4月5日 11時) (レス) id: b3d6cd4611 (このIDを非表示/違反報告)
金平糖@ラビが大好きリーフパイ(プロフ) - わー!!完結おめでとうございます!!カラ松最高にかっこよかったです!おまけの更新、頑張ってくださいっ!! (2018年3月19日 6時) (レス) id: 942887e5ad (このIDを非表示/違反報告)
アオト(プロフ) - タナトさん» コメントありがとうございます!そこまで感情移入していただけるとは光栄です!これからも頑張ります! (2018年3月19日 1時) (レス) id: a3077fa68a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アオト | 作成日時:2016年12月18日 1時