戦国書簡

短編：誤りは誤りじゃない（戦国BASARA　石田三成） ページ19

高い空に美しい月の浮かぶ夜―

「ちゃんと元気かな？」

月明かりと燭台にともる灯を頼りに文を書きながら、そんなことを言ってみる。
幼い頃、近所の寺に預けられていた彼と出会ってから、幾星霜。
今や立派な武将となって、その噂は田舎でひっそりと暮らす私の元にも流れてくるほどだ。
今でも時折、文が届く程度の繋がりはあるけれど、内容は時候の挨拶と当り障りのないものばかり。
そんな微かな繋がりでも続けていたいと思うのは、幼い私の胸に芽生えていたものが原因。
所謂、初恋…だと思う。
まぁ、恋と呼べるほどのものでも無かったかもしれないけれど。
ただ、月日が想いを育てるというのは本当のようだ。
私は彼に届くことのない想いを抱きながら過ごし続けている。
その代わりと言っては何だけれど、いままでも、これからも、ずっと彼には健やかに過ごしてほしい、その祈りを抱いて生き続けるのだろう。

「かくとだに えやはいぶきのさしも草 さしも知らじなもゆる思ひを、か。」

ふと思い出した歌を口遊む。
［せめて、こんなに私がお慕いしているとだけでもあなたに言いたいのですが、言えません。伊吹山のさしも草ではないけれど、それほどまでとはご存知ないでしょう。燃えるこの想いを。］とは、何とも私にぴったりな歌だ。
本当に良い歌で、何度も口遊むうち、勢いで、文にも同じ歌を書いてしまう。
あぁ…しまった。折角の上等の和紙が勿体ない。
しかし、このまま送るわけにもいかないし、書き直さないと。


数時間後―

「ふわぁ…眠い…。」

大きい欠伸を噛み殺し、書き終えた文を畳む。
もう眠すぎて手元を見るのも億劫だし、確認はしなくても良いだろう。
明日、使いに渡さなきゃ…おやすみなさい。

＊續・誤りは誤りじゃない→←書き損じ書簡

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