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そのまっ白な背中には、無数の蚯蚓腫れがうごめいていた。ふわふわの寝台に横たわった魔族の少女を押し倒して馬乗りになり、片手をつないでいた。蓄音機が春の木漏れ日のような、素朴で優雅なピアノの音色を垂れ流す。あはあはと姫華の息も絶え絶えな笑い声が響いていた。
「ありがとう、ありがとう。知らない青いとりさん！ㅤ殺しました。私、殺していました！ㅤしあわせになれましたか？」
支離滅裂に、そう叫んで笑っていた。痙攣した目は滂沱の涙を流していた。常軌を逸している。だが、それを間近で見ている魔族は、ひどくほほえましげに、注射痕だらけの姫華の腕をさすっていた。楽しそうで、陶然としていた。
「お前が幸福そうで、ボクも嬉しいよ。夢から覚めたらどのようになるのかな。そのときは、またメヌエットをおどろうね」
吐き気をもよおす光景だった。アタシは思わず、手に持っていた薬品をとり落としそうになった。解熱剤だと言っていたのに。ぜったいに違う。これは、ひとから心を奪いとり、堕落させる悪魔の秘薬だ。
「ああ、セレネ。来てくれたの？ㅤごめんね、こんな格好で……姫華、私のことがだいすきみたいで、離してくれなくって。薬、持ってきてくれる？ㅤ熱を出してから、ずっと不安らしいの」
魔族に薬を渡すとき、アタシは少女を狂わせるのに加担しているのを感じて、いますぐに死んでしまいたくなったのだった。
「優しいひとたちなんだなってわかるよ。いやがられているのに、へんなことを言ってるってわかるけど」
はっと我に返る。
「まあ、わずらわしそうだし、出ていこうとは思ってたんだけどね……」
エイミーさんと一緒なら心強いな、と相好を崩した姫華は、とっくにスープを食べ終えていた。
「でも、タナーシャがついてきてくれるとは思えません」
「無理やりにでも引き摺っていくにゃ。どーせアイツも、エルフの連中は好きじゃないし。ああ見えて姫華のことは認めてるにゃ」
「甘ったれは嫌いって言われたんだけど」
「いやがらせを受けて仕返しもしないのが気に食わないだけにゃん」
「ええ……わりと子どもだあ。もうちょっと大人っぽいって思ってたのに」
姫華は口をとがらせるも、口でいうより不満はないようだった。むしろ目尻を赤らめている。嬉しそうだ。この表情には覚えがある。エイデンを見つめるアガーシャやイーナとそっくりだ。
「ふーん。へぇー……」
「どうしたんですか？」
自覚はなさそう。でも、アタシはしっかりと、しあわせになってほしいひとの、しあわせの兆しを見つけたのだ。
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